今年は歌舞伎小道具の老舗、藤浪小道具が東京・浅草の地で創業して百五十年の節目の年である。
歌舞伎の小道具は火鉢や刀、鎧(よろい)、牛車などタイムスリップしたような珍品ばかり。芝居に合わせて細かく使い分けているので種類も数も膨大だ。令和の時代、それらをどう守り、今後に伝えていくのか。同社の小道具収蔵基地ともいえる、埼玉県越谷市の倉庫を訪ねてきた。
外から見るとごく普通の建物。だが一歩足を踏み入れると小道具がぎゅうぎゅうに詰まった芝居の空間。まるで巨大おもちゃ箱だ。この倉庫がなければ、歌舞伎の幕は開かない。
それにしてもすごい数。どこに何があるのか、どう把握しているのだろう。
「バーコードはついていませんよ。全部、ここ」
この倉庫、正式には越谷第一営業所の所長である宮岡哲也さんは、笑いながらご自分の頭を指さす。
宮岡さんは、古い言葉で言うと「蔵番(くらばん)」という仕事をしている。倉庫にある道具をすべて管理するのはもちろん、道具選びの鑑定士のような役割もする。たとえば、ある演目で使う掛け軸を選ぶ時。あまたの中から、ぴたりと最適な一つを選び出す。
小道具は消耗品。舞台で使うと傷んだり壊れたりするので、補充する必要がある。しかし、近年は苦労が多い。代表取締役社長の野村哲朗さんは「現代の日常生活では使わないものがほとんど。調達は難しくなる一方」と頭を抱える。
今月、東京・歌舞伎座で上演中の「助六」に出てくる蛇の目傘も難題の多い道具の一つ。和紙の厚みや色、傘を閉じたときの形や美しさ…。何年も駆けずり回って準備したそうだ。
ところで、藤浪小道具には、知る人ぞ知る伝説の蔵がある。本社のある浅草の地に立つ古い土蔵で、一九二三(大正十二)年の関東大震災、四五(昭和二十)年の東京大空襲の大火にも耐え、鎧や刀剣類など重要な小道具を守り抜いた。この蔵があったから戦後すぐに歌舞伎が再開できたといわれる。
「わが社にとって大事な蔵。きれいに改装して活用していきたい」と野村さん。小道具を未来につなぐ蔵。どう生まれ変わるのか、楽しみである。(伝統芸能の道具ラボ主宰・田村民子)
<藤浪小道具> 1872(明治5)年、歌舞伎小道具の製作、賃貸を行う会社として創業。かつて芝居町として栄えた東京都台東区浅草に本社を構える。従業員は約100人で、約6割が歌舞伎に携わっている。明治中期より、新派劇や日本舞踊、オペラなど他ジャンルの舞台にも進出。テレビ放送の開始(1953年)とともにテレビ局へも小道具を提供。オリジナルグッズの通販サイト「フジナミヤ」も展開中。
関連キーワード
おすすめ情報
from "道具" - Google ニュース https://ift.tt/sof7Dxb
via IFTTT
Bagikan Berita Ini
0 Response to "<新お道具箱 万華鏡>芝居の匂いに満ちた収蔵庫:東京新聞 TOKYO Web - 東京新聞"
Post a Comment