
銅線の先をねじり合わせるたびに、光沢のある六角形が放射状に増えていく。高台寺近くにある「金網つじ」(京都市東山区)。「集中すると、息を止めているんですよ」という辻徹の作業は、1日10時間に及ぶ。
銅やステンレスの針金で料理道具などを形作る京金網。起源は平安時代に遡るという。2代目の辻は、家業に入って21年になる。扱うのは茶こしや豆腐すくい、ごま煎りといった定番から、ランプシェード、コーヒードリッパーまでと、洋の東西を問わない。指先に神経を注ぎ込み、菊の花や亀甲の模様を編み込んだ伝統工芸品は、見た目に美しく、使って心地よい。
店は1985年、辻の父・賢一が京都市北区で創業した。仕事熱心な両親は、授業参観に来たことがなかったという。辻は「寂しさもあり、こんなに忙しい仕事は継ぎたくないと思っていた」と打ち明ける。
家業を避け、高校卒業後はヒップホップ系の洋服店で働いた。礼儀正しい接客で売り上げを伸ばしたが、3年ほどで退職。レゲエ音楽発祥の地・ジャマイカを巡った。
旅を終え、数年ぶりに両親の工房をのぞいた時だ。実直にものづくりを続ける姿に吸い寄せられた。「自分で作って売る方が面白い」。そう直感し、21歳で家業に入った。
当時手がけていたのは主に料理や和菓子の店で使う道具で、大半は問屋に卸していた。ある時、納めた品が雑に扱われるのを見て、「一生懸命作ったもの。直接売りたい」という気持ちがわき起こった。両親を説得し、2007年に小売店を構えると、「一般のお客さんが家庭で使いやすいものを」とアイデアを絞った。
その一つが、鍋の具材を盛る網だった。四角や八角の洗練した形。網が滑らず、受け皿を傷めないようにと、脚にシリコーンのチューブを付けた。伝統を生かしつつ、使い勝手を工夫した商品の反響に、手応えを感じた。
視野を広げるため、欧米やアジアにも足を運ぶ。「新しい価値観を取り込み、アップデートしていくのが職人」。その考えを基に、従来の料理道具から手を広げて完成させたのが、照明を飾るランプシェードだ。明かりをつけると、壁に
信念があるという。「手仕事に年齢や性別、経歴は関係ない。多様性のある業界を目指したい」。職人が7人にまで増えた店では、引きこもりを経験した人や中途採用の人材を雇い入れ、障害者施設に依頼して完成したマドラーも販売している。「自分は勉強が苦手だったけど、今の仕事ではお客さんに喜ばれ、褒められることもある。伝統工芸が生み出せる雇用があり、地域を支える仕事になる」と確信する。
「京都には生き生きした職人がたくさんいる。ものづくりを通じ、世界中の人に発信していきたい」。伝統の技に気概を編み込み、京金網の可能性を押し広げていく。(敬称略、編集委員・木須井麻子)
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