カレラ4 GTSへ大幅に手を加えたダカール
「真冬のキャンプは景色が美しく、挑戦そのものを楽しむ人もいます。しかし、肉体的・精神的に、忍耐が必要だという人もいるでしょう」。グレートブリテン島北部、スコットランドのアウトドアライフを推進する団体、マウンテニアリングも認めている。
【画像】オンロードも望外に面白い ポルシェ911 ダカール ベースのカレラ4 GTS ウラカンも 全133枚
筆者は、キャンプの経験が殆どない。キャンプ道具への憧れも殆どなかった。スコットランドの首都、エディンバラ郊外のデカトロン・ストアへお邪魔したのも初めてだ。
登山を専門にするスタッフ、ロクサナさんが、氷点下でも過ごせる寝袋や保温性の高い肌着、充電式ランタン、調理器具セット、小さなガスストーブなどを提案してくれる。寒い中では特に、体温と栄養が重要なようだ。
テントは必要ない。乗ってきたクルマには、ポルシェの純正オプションの1つ、ルーフテントが固定されている。ただのポルシェではない。英国価格17万3000ポンド(約3200万円)もする、911 ダカールだ。
1984年に、ルネ・メッジ氏のドライブでパリ・ダカール・ラリーを優勝した、953がオマージュされている。そのベースになったのは、四輪駆動の911 カレラ3.2だった。
新しい911 ダカールは、992型の911 カレラ4 GTSへ大幅に手が加えられたモデル。富裕層のアウトドアライフへ対応できる、充分な悪路性能が与えられたらしい。
鮮やかなロスマンズカラーでドレスアップされる、ラリーデザイン・パッケージは装備されていない。今回は、日没が迫る砂漠を駆け抜けたり、砂埃が舞うグラベルを走る予定はない。
最低地上高は161mm 道具感の漂う見た目
最高速度は267km/hで、最低地上高は161mm。油圧で最大191mmまで持ち上げられるが、その前でも容姿は精悍だ。落ち着いたグレー・グリーンの塗装に、ブラックのボディガードが映える。筆者は、道具感の漂う見た目が好きだ。
カメラマンとともに、エディンバラから更に北上し、ケアンゴームズ国立公園を目指す。3時間ほど911 ダカールを走らせる。エグゾーストやトランスミッションの特性にも、道具的な馴染みやすさが施されていれば、なお良いのだが。
1番穏やかな設定にしても、アクセルペダルを少し傾けると水平対向6気筒エンジンから熱心な排気音が響く。8速デュアルクラッチATは、低めのギアを保とうとする場面がある。仕事で疲れた週末に別荘へ向かう時には、少し煩わしいのではないだろうか。
カーボンファイバー・シェルのバケットシートは、身体を見事に包んでくれる。しかし、排気音に共鳴する。無料オプションの、スポーツシート・プラスの方が良いかも知れない。ヒーターが備わり、電動で角度を調整できる。
ラリースポーツ・パッケージのロールケージも、ラリーへ出場しない限り不要だろう。そのぶん、シート後方の空間を有効に使える。
タイヤは、サイドウォールが厚いオールテレーンのピレリ・スコーピオン。ぬかるんだ路面に合わせてブロックが大きく、高速域では若干落ち着かない。
ルーフテントは、110km/h以上で風切り音を鳴らす。クルーズコントロールをオンにして、少し控えめな速度で走るのが良い。
ランドローバー・ディフェンダーのよう
スコットランドはすっかり真冬。ピトロクリーという小さな町を取り囲む森は、深いグリーンと淡いブラウンに、散り残ったイエローが入り混じりカラフル。ギャリー湖にはガスがかかり、幻想的な景色を生んでいた。
ケアンゴームズ国立公園へ入り、ジンの蒸留所も営むウォルター・ミックルスウェイト氏と対面。彼は、200エーカー(約81万平方m)の広大な敷地を自由に走らせてくれるという。
911 ダカールをオフロードモードへ切り替え、最低地上高を最大にする。前後アクスルを結ぶクラッチはデフォルトにし、前後へ均等にトルクが分配されるように。アクセルペダルを踏むと、レスポンスが一層鋭くなったことがわかる。
グラベルの小道を飛ばす。石が露出したスペイ川の河川敷へ入るが、911 ダカールはまったく意に介さない。ランドローバー・ディフェンダーのようだ。
さらなる冒険を求めて、ミックルスウェイトが所有する山へ。湿度が高く、シダ植物が栄えている。ゴツゴツとした岩が露出した、滑りやすそうな急斜面へ挑む。
シャシー底面へ、尖った岩が接することはない。トラクションを維持したまま、一定の低速度で頂上へ近づいていく。見事なまでに繊細なアクセルレスポンスに、高性能なヒルホールドと8速ATのマッピングが相乗し、ステアリング操作へ集中できる。
長いオーバーハングが生む制限
背の高いオフローダーにありがちな、グラつきは皆無。後輪操舵システムが、小気味よくフロントノーズの向きを変える。
サラウンドビュー・カメラは、路面を映し出す。手強い障害物を乗り越えつつ、映像を眺める余裕すらある。ぬかるんだ沼地へ近づいても、911 ダカールはひるまない。
森林限界に達し、突如視界がひらける。大きな障害といえば、深くえぐられた小川程度。最低地上高は、エアサスを組んだポルシェ・カイエンの80%に迫る。スチールコイルのカイエンなら、90%以上になる。
ただし、911 ダカールは前後のオーバーハングが長い。フロントのアプローチ・アングルと、リアのディパーチャ・アングルは、それぞれ16度と18度で限定的だ。
頂上の手前で、通過できないほど深い溝へ出くわした。フロント・オーバーハングが、あと30mm高い位置にないとクリアは難しい。リカバリーボードやラダーを敷かなければ、これ以上先には進めなさそうだ。
エンジンを停めると排気音も収まり、静寂に包まれる。左手には針葉樹林が広がり、右手には背の低い高山植物が茂っている。眼下には、ボート・オブ・ガーテンの町の灯りが、日没の大地に浮かび上がっている。
この続きは、ポルシェ911 ダカールで真冬のキャンプ(2)にて。
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