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「税金の無駄遣いだ。今から最先端のキャッチアップは無理。製造は海外のファンドリーに任せればいい」
TSMC誘致、ラピダス設立。経産省の半導体戦略には、産業界からそんな批判もある。「経産省幹部が出世のため、メディア、そして国民に聞こえの良い計画を見せているだけではないのか。10年もたてば、次の幹部が新しい計画を立てるに違いない」。こうした不安があるのは確かだ。これまでも日本政府は、国内半導体を立て直す計画を立てては失敗を重ねてきた。今さらどうやって信じればよいのか、という思いには理がある。
2023年4月。筆者はラピダスの動向を受けて、再び経産省の荻野室長に取材を申し込んだ。取材時間も終わりに差し掛かった頃、気になっていた質問をぶつけてみた。
「今の半導体戦略を推し進めている政府・省庁メンバーも、いずれガラっと変わるでしょう。政権交代もあります。そうなったら半導体戦略も一新されてしまうのではないですか」
すると、荻野室長の声に途端に熱が帯びた。これまでも何度も聞かれてきた質問だったのだろう。
「我々は本気です。法律を変えるということは、簡単ではないんですよ。それこそ、死ぬ気でやりました」
荻野室長は本気を示すため、「あえて法改正した」と力を込める。「法改正しなくても、TSMCやラピダスへの財政支援は(都度の措置で)できます。ですが、あえて法律に(半導体戦略を)組み込みました」と語る。
対象となる法律は、改正5G促進法だけではない。ラピダス設立に当たっては、2022年5月に成立した「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保に関する法律(経済安全保障推進法)」に半導体の項目を組み込んだ。半導体など11品目を、経済安保に関わる「特定重要物資」とし、政府による財政支援の対象とした。
法律は一度制定すると、書き換えるのは非常に困難だ。2つの法律には半導体産業への支援方針が明確に示されている。これが経産省、そして日本政府としての「意志」であるというわけだ。
ただ、まだ経産省への疑問は残る。半導体戦略の根幹に当たる疑問。そもそもなぜ、国内に先端半導体の製造基盤を取り戻す必要があるのか。
JASMについては、理解しやすい。日本には、22/28ナノメートル半導体のユーザーがいる。クルマやイメージセンサーといった用途があるからだ。
だが、2ナノメートル世代はどうか。しばらくはスマホやスーパーコンピューターなどのHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)向けで使われるが、日本はこれらの分野で存在感を出せていない。日本に産業基盤があるクルマや産業機器で必要とされるのは、もっと先だろう。
およそ30年間没落していた日本半導体が、IBMの協力を得て華々しく最前線へ。そして、世界の半導体シェアを再び握る―。物語としては心躍るが、現実を考えると、そのハードルはあまりに高い。
半導体サプライチェーンは世界中に分散している。この状況は、微細化が進むにつれて今後も続く。これからは各国が材料や装置、製造、設計ツールなどの強みを生かし、連携が加速する。そこには無論、政治的意図が多分に含まれている。であれば、日本は2ナノメートル世代については、台湾や米国のような地域から輸入すればよいという考え方もあるはずだ。
ラピダスはIBMからの申し出で始まり、米国政府の後押しで一気に進んだ。経産省がこれに応じた理由は何か。経産省にとっての「半導体復権」は何を意味するのか。
「経産省にとって、半導体復権とは何ですか」
荻野室長にこう尋ねると、思わぬ答えが返ってきた。
「日本は1980年代、世界の半導体シェアの半分を持っていました。あの時代には戻れないと思います。これだけ世界にサプライチェーンが広がっていて、状況が異なるからです。日本の目標は、今後も6極の1つとして世界から必要とされ、自立していくということです」
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