アフロヘアがトレードマークの稲垣えみ子さんが驚きの食生活を公開し、第5回料理レシピ本大賞料理部門エッセイ賞を受賞した『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』が文庫になりました。50歳で不安を抱えたまま会社を辞めた稲垣さんの人生を救ったものは何だったのか? 本書から一部を抜粋してお届けします。
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「料理好き」は「調理道具好き」
さて、料理といえば切っても切り離せないのが調理道具です。
そして、料理好きはほぼ例外なく「調理道具好き」でもある。
つまりはあれもこれも作りたい、食べてみたい、さらにはもっとちゃんとまるでプロみたいに作りたいと願うほどに、調理道具はどんどん本格的になり、その種類も増えていくのであります。
自称料理好きの私も、もちろんそうだった。例えば鍋だけでも、一体何個持っていただろう?
丸元淑生さんの本に影響されて買ったビタクラフト、母が誕生日にくれたル・クルーゼ、姉貴が就職祝いにくれた鉄の大きなフライパン、転勤時に会社の後輩が餞別に送ってくれた圧力鍋、さらに揚げ物用の鍋、すき焼き用の鉄鍋、飯炊き用の土鍋、そしてミニセイロのついた小さなアルミ鍋……。いやもう一人暮らしなのにこのアリサマ。それでもまだビタクラフトの小さなフライパンが欲しくて欲しくて物色していたっけ。鍋ってよほどのことでもない限り壊れたりしないから、とにかく際限なく増え続けるばかりなんだよね。
それにしても、なぜ調理道具ってあんなに魅力的なんでしょう。
外出先で洒落た調理道具屋さんがあると、必ずふらふらと店内へ吸い込まれてしまう私でありました。道具というのは本質的にかっこいいし、それを使って自分で何かを作り出す様子を想像すると本当にうっとりするのです。
そう、そこにあるのはワンランク上の暮らし。
パスタマシンとかね。取っ手を回したらニョーンと生麺が出てくるなんて、ああまるで憧れのイタリアのマンマのようじゃありませんか。我が家がイタリアに大変身だよ~と、しばし妄想に暮れる。
さらに「その道具がなければできない料理」っていうのがレシピ本に載ってたりするわけです。フードプロセッサーさえあれば一瞬にして洒落たスープやらソースやらができるとか。そう言われると、フープロを手に入れなければ本来得られるはずの人生の輝きが損なわれるような気がして焦ってくる。かくして調理道具の誘惑はとどまるところを知らなかったのでありました。
しかしですね、私、幸か不幸かそのような夢とは一切無縁となりました。
何度も言いますが、会社を辞めて引っ越した家の台所があまりにも狭すぎて、とてもじゃないが我が大量の調理道具を新居に運び込むことは不可能だったからです。つまりは鍋もボウルもフープロも、容赦ないリストラを敢行せざるをえなかった。
鍋1個、包丁1本さえあれば
で、究極まで減らして残った主な調理道具は、以下の通りです。
- ミニカセットコンロ1台
- ストウブの小鍋
- 小さな鉄のダッチオーブン
- 包丁1本とまな板1枚
- ボウルとザル1個ずつ
いやー、まさかの超大胆リストラ!
多種多様の鍋は、古いものは処分、新しいものは人様に差し上げました。新品同様のものもあって(つまりはあまり使ってなかった……)とても喜ばれましたが、一方の私は、人生で経験したことがないスカスカの台所に不安が募ります。社会人になり一人暮らしを始めたばかりの時だって、この倍は鍋やらボウルやら持っていた気がする。
だ、大丈夫なのか?
ちなみに第1章でご紹介した料理の達人・桐島洋子さんも、著書『聡明な女は料理がうまい』にて調理道具はシンプルにと説いておられます。しかしその桐島さんにして、具体的なその中身を見れば……。
まな板2枚、ガスレンジは3口、オーブンは是非とも、フライパン3個、鍋は蒸し器も入れて5個、包丁は3種類、ボウル3個、ザル2個、タッパー各種各サイズたくさん、さらに消耗品として、ラップ、アルミホイル、ワックスペーパー、ペーパータオルも揃えるべし……とある。
いやいや、今の私から見たらシンプルどころか非常に大掛かりな道具立てとしか思えません!
でもわかりますこのチョイス、非常にプロっぽくてかっこいい。桐島さんの言うシンプルとはそのような意味なのだと思う。
しかしですね、家で普通にご飯を食べるということを考えれば、果たしてここまでの道具立てが必要なのか。
だってね、私、たったこれだけの道具で、意外に、全くもって、全然なんとかなっているのでありました……っていうか、改めて考えてみると料理が非常にラクに楽しくなったじゃないの!
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続きは幻冬舎文庫『もうレシピ本はいらない 人生を救う最強の食卓』をご覧ください。
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