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【わたつみの国語り 第3部】(1)家財道具を載せた船で暮らす 漂流漁民の記憶 - 産経ニュース

わたつみの国語り 第3部

海にかかわる日本人の精神史を探る「わたつみの国語り」第3部は、土地に縛られない人々「海民」を取り上げる。土地本位の統治や慣習が強いこの国で、海を生業とする人たちはどう生きてきたのか。漂流、移動や海外出稼ぎなど、海民たちの足跡をたどる。

広島県尾道市の吉和(よしわ)漁港に大粒の雨が降るなか、松本幸人(ゆきと)さん(82)が漁から帰ってきた。「朝から網を仕掛けよったけ、あげてきた」。桜色をしたきれいなタイをつかみあげた。

港のすぐそばをJR山陽線が通り、貨物列車が長い轟音(ごうおん)を立てて通り過ぎる。松本さんはかつて船で暮らす家船(えぶね)漁師だった。漂うように生きてきた海民の末裔(まつえい)だ。

「生まれ落ちて2カ月もすれば船に乗っとったろう」

漁を終えて吉和漁港に帰ってきた松本幸人さん。海上で生活する家船漁師だった=広島県尾道市 (坂本英彰撮影)

鍋釜やふとん、生活道具一切が船にあった。昼間は家族で一本釣り漁をし、夜は波静かな入り江や島陰に船をとめて家族で寝る。5歳で釣り糸を垂れ、8歳で櫓をこいだ。男3人と女2人のきょうだい5人は家船で育った。

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