生成AIが世界を一変させると世間では騒がれているが、この技術はまだホワイトカラーの仕事を大きく変革するには至っていない。従業員はメールの下書きなどのタスクをチャットボットに任せたり、企業はさまざまなことを試したりしているが、オフィス業務はまだ劇的には変わっていないのだ。
しかし、これはもしかするとグーグルのGeminiやOpenAIのChatGPTのようなチャットボットに、適切なツールを与えられていないからかもしれない。こうしたチャットボットは通常、チャット形式のインターフェイスでユーザーからテキストを受け取り、結果を出力することに制限されている。AI企業がインターネットを介してほかのソフトウェアを操作しタスクを実行できる、いわゆる「AIエージェント」の提供を始めたら、AIは仕事でもっと便利に使えるようになるかもしれない。
ツールを使ってタスクを実行
OpenAIの競合であるAnthropicは、5月31日に主要な新製品を発表した。この先AIの利便性を飛躍的に高めるには、それがツール(道具)を扱えるようになる必要があることを証明しようとしているのだ。Anthropicはこの新製品で、開発者が同社のチャットボットである「Claude」で外部のサービスやソフトウェアにアクセスし、より有用なタスクを実行できるようする。これで例えば、Claudeは電卓を使用して大規模言語モデル(LLM)が苦手な数学の問題を解いたり、顧客情報を含むデータベースにアクセスしたり、必要なときにユーザーのコンピューター上にあるほかのプログラムを活用できたりするようになる。
AIをより有用にするだけでなく、機械の知能を高めることにおいてタスクを実行できるAIエージェントの重要性については、前にも紹介している。Claudeが道具を使えるようになることは、より有用なAIエージェントを世界に送り出すという目標の実現に向けた小さな一歩なのである。
Anthropicは数社と協力して、その企業の従業員が使えるClaudeを活用したAIエージェントを構築している。例えば、オンライン家庭教師サービスを提供するStudy Fetchは、Claudeが同社のサービスのさまざまな機能を使用して、学生に提示するユーザーインターフェイスやシラバスの内容を変える方法を開発した。
AIエージェントが各社から登場
ほかの企業も“AIの石器時代”に突入している。グーグルが5月初めの開発者会議「Google I/O」で発表した一連のAI製品には、AIエージェントのプロトタイプがいくつか含まれていた。そのひとつは、オンラインショッピングで買った品物の返品手続きを手助けするものだった。このAIエージェントはユーザーのGmailのアカウント内にある領収書を見つけ、返品フォームに情報を記入し、集荷の予約をする。
グーグルはまだこの返品対応ボットを一般には公開しておらず、ほかの企業も慎重にことを進めている。その理由のひとつは、AIエージェントを正しく機能させることが難しいからだろう。LLMは求められていることを正確に理解できるとは限らず、誤った判断をしてタスクを完了するために必要な手順を遂行できなくなることがあるのだ。
初期のAIエージェントが担う企業のワークフロー内の役割やタスクを制限することは、この技術をさらに便利なものにする適切な方法かもしれない。物理的なロボットは、失敗を最小限に抑えられるよう慎重に制御された環境に導入されることが多い。それと同じように、AIエージェントを厳しく管理することでミスの可能性を減らせるのである。
大きなビジネスを生む可能性
こうした初期の用途でさえ、多くの利益を生むかもしれない。ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)として知られる方法で、一般的なオフィス業務を自動化している大手企業はすでに存在する。 RPAでは一般的に人間の作業者が操作している画面を記録し、ソフトウェアによって繰り返し再現できる手順へと落とし込む。LLMの広範な能力に基づいて構築されたAIエージェントは、さらに多くの作業を自動化できるかもしれない。RPA市場はすでに290億ドルという高い価値があるが、AIの導入により2027年までに650億ドルに倍増すると、調査会社のIDCは予想している。
OpenAIの開発部門のバイスプレジデントだったデビッド・ルアンが共同創業したAdeptは、1年以上前からオフィス業務に使えるAIエージェントを開発してきた。Adeptは提携先企業とエージェントがこなすタスクに関する詳細を公開していないものの、同社の戦略は明確である。
「わたしたちのエージェントはすでに法人顧客の用途で90%以上の信頼性があります」とルアンは話す。「これを実現するために、AIの対応範囲を少し制限しました。わたしたちの研究はすべて、まだ十分に対応できていない作業における信頼性を向上させることに向けられています」
Adeptの計画で肝心な点は、AIエージェントに達成すべき目標とそれに必要な手順をより的確に把握させることである。同社は、あらゆる職場で役に立つ柔軟なAIエージェントの開発を目指している。「AIは取り掛かるタスクの報酬を理解する必要があります」とルアンは言う。「人間の行動を真似るだけでは足りません」
AIエージェントをより有用にするこうした重要な能力は、より強力な人工知能をつくるという大きなビジョンの実現にも必要不可欠だ。現時点で、特定の目標達成のために計画を立てる能力は人間の知能の特徴であり、LLMからは明らかに欠けている。
機械が人間のような知能をもつようになるには、まだ長い時間がかかるかもしれない。しかし、AIの進化に道具の使用が重要という考えは、ホモ・サピエンスの進化の過程を踏まえると示唆に富んでいる。
自然界において人類の祖先は動物の皮を切るといった作業のために荒削りの石器を使い始めた。化石を見ると、人類の器用さ、二足歩行、視力、脳の大きさが進化するにつれて知能が発達し、それに伴いますます洗練された道具を使うようになったことがわかる。そしていま、人類の最も高度な道具のひとつであるAIが、自らも道具を使えるようになるときが来ているのかもしれない。
(Originally published on wired.com. Translated by Nozomi Okuma, edited by Mamiko Nakano)
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