文楽の襲名を劇場ロビーから、賑(にぎ)やかに寿(ことほ)ぐ特別な飾り物がある。その名も「襲名飾り」。
天井まで届く設(しつら)えで、中央には太夫の名前が黒々と書かれた大きな「まねき」がかかる。御祝儀(ごしゅうぎ)袋がずらりと並び、めでたさ満載。格好の撮影スポットでもある。
義太夫節を語る太夫・豊竹呂太夫改め十一代目豊竹若太夫の襲名披露が行われている今月の国立文楽劇場(大阪市中央区)、来月のシアター1010(東京都足立区)で見ることができる。
この襲名飾り、だれがどのように作っているのか。3月下旬、その製作現場を見学してきた。
訪問したのは国立文楽劇場の地下。曲がりくねった通路を抜け、重い扉を開けると、巨大な空間が広がっていた。国立文楽劇場座付きの大道具会社・関西舞台の作業場である。
関西舞台は、1961(昭和36)年に創業した大道具会社。国立文楽劇場を拠点とし、文楽をメインにさまざまな古典芸能の大道具を製作し、舞台運営を行っている。
折しも4月公演の準備真っ最中。床に寝かせた大道具に絵描きさんたちが体いっぱい使って絵を描いている。そこから一段高い場所に製作途中の襲名飾りが置かれていた。
「これを作っていると、私たちも気持ちが盛り上がります」
そう話すのは山添寿人(やまぞえとしと)さん。タタキと呼ばれる大工仕事を担当している大ベテランだ。せっかくのお祝い事にミスがあってはいけないので、いつもにも増して気が張るという。
発注主は、襲名する本人。襲名飾りには定番のスタイルがある。二つの提灯(ちょうちん)がかかり、上部には水引幕が付く。だが、人によって細部に違いがあるそうだ。製作前に、幕の色を相談し、菰樽(こもだる)のお酒や生竹を組んだ竹馬と呼ばれる飾りのあるなしなどをひとつずつ確認していく。
提灯と水引幕には、太夫の紋が入る。このたびは「竹の丸にトヨの紋」。これは、若太夫のみに許される特別な紋だ。いかに大きな存在の紋であるか、小幕を見るとわかる。
小幕とは、文楽の舞台の上手と下手に常にかけられる黒い幕のこと。その布には、二つだけ紋が染められている。ひとつは義太夫節の開祖である竹本義太夫が開いた竹本座の紋。そして、もうひとつが若太夫の紋なのだ。
襲名飾りと小幕。紋にも注目して、ご覧ください。 (伝統芸能の道具ラボ主宰・田村民子)
◆公演情報
<5月文楽公演> 5月9~27日(15日休演)まで、東京都足立区のシアター1010。Aプロは豊竹呂太夫改め十一代目豊竹若太夫襲名披露狂言「和田合戦女舞鶴」、襲名披露口上ほか。Bプロは「ひらかな盛衰記」を上演。4月14日から予約開始。国立劇場チケットセンター=(電)0570・079900。ネット予約は「国立劇場チケットセンター」から。
◆取材後記
文楽では1体の人形を3人の人間で操る。人形はたくさん出るので、舞台の人口密度はかなり高い。だから「人形遣いさんの動きが頭に入っていないと、大道具を作ることができない」と山添さんは言う。絵描きやタタキを担当する人も、最初のうちはみんな舞台転換の仕事に就くそうだ。
同じ演目でも、歌舞伎の大道具と比較すると大きく異なり前から興味があった。文楽のために進化した大道具の技や知恵。もっと知りたくなった。 (田村民子)
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