イタリア料理を楽しめるホームセンター(HC)がある。正確には、飲食のテナントが入っているのだが、それにしても資材や工具、園芸といった売場との組み合わせは、ややミスマッチにも思える。「提供される料理とは?」「HCとの相乗効果は?」「そもそも店はお客から認知されているのか?」など、数々の疑問を解消するため、現地に足を運んだ。
売場を回遊、買い物をする
2023年11月下旬──。私は京都駅八条口近くにある京阪バスの停留所に立っていた。ここから出る「ダイレクトエクスプレス直Q京都」というバスに乗るためである。
行き先は「ホームセンタームサシ京都八幡店」。京都府南部の八幡市にあるが、私の住む京都市内からだとアクセスがあまりよろしくない。検索の結果、上記のバスであれば簡単に近くまで行けるとわかった。
バスに乗ること26分、最寄りの停留所「あかねヶ丘」に到着。そこから6〜7分歩けば現場である。驚くほどスムーズだった。
これがムサシ京都八幡店。真っ黒な外観は迫力があり、何より超大型店舗なので品揃えが充実している。あぁ、楽しみだ。
イタリア料理が今日の目的だが、時計を見るとまだ午前10時半ごろ。昼時までには少し時間があるため、店内をしばらく回遊することにした。
収納用具、電動工具、木材、園芸用品売場などあちこち歩く。いつもの取材者ではなく、消費者、生活者の視点で回るHCは、なかなかエキサイティングだ。気になる商品が複数見つかり、せっかくなので買い物した。
2階へ移動。イベントスペースでは「燕三条キッチンツールフェア」が開催中だった。Webサイトには「新潟県の金物・刃物の町『三条』『燕』から高品質なキッチン用品、テーブルウェアが大集合!」とある。本場モノが手に入ると思うと、気分が高揚してくる。あれこれ物色、ここでも商品を購入した。
私が買った商品を披露したい。
最初は1階の「防災コーナー」に並んでいた「キッチン消火スプレー」(税込880円)。エアゾール式簡易消化具で、「もしもの時の初期消火に」と買いてある。心配性の私は、いつも家を出る時、ガスの火が消えているかどうかを“何度も”確認するタイプ。台所にいる時も「目を離した時、火が出たらどうしよう」なんてつい考えてしまう。なので、商品を見た時、迷わずカゴに入れてしまった。これがあれば安心だ。
次は2階で開かれているフェアで発見した、皮むき器の「ジャンボピーラー」(税込1880円)。「刃物の町」で作られた製品なら、ぜひ手に入れたい。「これを使えば、きめ細やかなキャベツの千切りが簡単にできる!」と想像するだけで興奮した。
ただ売場では、もう少し情報がほしいと感じた。
というのも商品について用途や使い方の表示はあるが、メーカーの説明はまったくなかったからだ。とくにキッチンツールは不案内で、私には選択の基準がない。もし「このメーカーは新興だが近年、ピーラーに力を入れている」とか、「企業規模は小さいが、高い研磨技術に定評があるメーカー」等の解説があればきっと興味がわく。そういうのがあれば少々値が張っても買う人は増えるはずだ。
平日なのに昼前には満席
気づくと午前11半過ぎである。やや早いと思ったが、待ちきれずにイタリアンレストランへ入ることにした。店名は「Cento per Cento(チェントペルチェント)」。HCを展開するアークランズのグループ企業が運営しているようだ。
執筆している2023年12月初旬現在、全国に8店舗があり、京都八幡店はその第1号。HCが開業した2005年から営業しているという。
面白いのは飲食ゾーンにあるのではなく、趣味の手作り関係商品を集めた「アークオアシス」という2階売場の壁面に店を構えている点。店の前はビーズとか、皮とか、造形用品が並んでおり、そこに“いきなり”イタリアンレストランがあるのだ。
そして入店する。スタッフのお姉さんに「お好きな席へどうぞ」と案内され、明るい場所を選び、着席した。
早速、メニューを開いて料理を確認する。価格帯は1000円前半からで、パスタ、ピザのほかセットメニューなどがあり、総じてリーズナブルだ。
数ある中から「季節のピアットウニコ」(税抜き1500円)に決めた。「きのこのラグー グアンチャーレ添え リングイネ」という季節限定パスタのハーフサイズに、前菜のプレートがついている。
料理が届く間、店内を観察した。
私が入った時、テーブルは全体の2割ぐらいしか埋まっていなかったのに、11時50分ごろには、ほぼ満席になっている。客層は50〜60代以上で、9割がた女性。皆さん、きちんとした身なりで上品な方が多い印象である。いやぁ、平日でこれはすごいな。聞けば週末には行列ができるそうだ。
注文して約5分、前菜のプレートが到着した。スープは野菜がたくさん入ったミネストローネ、蒸し鶏のサラダ、自家製窯焼きパンなどが並び、とてもおいしそう。まずは、生ハムが乗っているパンを頬張る。次に、サラダを口へ、そしてスープを飲んだ。私は思わず「ブォーノ!」と叫んだ。
しばらくしてパスタが届く。早速食べる。残念ながら私は、イタリア料理の複雑な味を言語化する知識と経験を持っていないが、やはり最高であるのには変わらない。もう夢中になって食べた。
食後、注文していた生チョコタルトがやってきた。イタリアンのデザートは濃厚でよいな。こちらもじっくり味わった。ふぅ、満足だ。ごちそうさまでした。
肝心のイタリア料理店との相乗効果についてだが、確実にHCへプラスの影響を与えていると感じた。手作り関係商品のコーナーがあるフロアとはいえ、このおしゃれな店は、HCに新たな層を呼び込む重要な装置になっている。
いや、なかなかやるな、ホームセンタームサシ京都八幡店。感心しながら、私は帰路についだ次第である。(了)
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