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パラオ編 道具づくりとパラオ版運動会 - 教育新聞

道具がそろっていない中での運動会

 私の勤めるパラオのコロール小学校では、10月にパラオ版運動会が行われる。保護者も参観し、競技だけでなく開会式や表彰式も行われるなど、日本の運動会スタイルが定着している。9月になると学年の先生と相談しながら学年で行う競技を決めていくのだが、各学年団体競技を2種目、8学年あるので全部で16種類の団体競技が必要だ。

運動会で審判をする8年生の子供たち

 パラオでは基本的に体育に必要な道具がそろっていないので、今までやったことがある団体競技といえば、バトンの形を変えただけのリレー競技ばかり。せっかくやるならリレー以外の競技に挑戦してほしいと思うが、とにかく道具がない。パラオは島国であることや自国に工場がないことから生活に必要な品はほとんど輸入に頼っているため、注文してもいつ届くのかは分からない。ならば作るしかない!今回作る道具は、この先も体育の授業で生かすことができるだろうと考え、先生たちの協力を得ながら道具作りに奔走する日々が始まった。

ホームセンターで

 パラオのホームセンターでも、針金や木材、塩化ビニール管など日本で売っているようなものがたくさん売っている。私はここでロープを買い、縄跳びとして使うことにした。また塩化ビニール管は、さまざまな太さや重さのビニール管がたくさんあり、それらを組み合わせて陸上用のハードルを作成することにした。

 ホームセンターの店員に「塩ビ管を買いたい」と言うと、長さや数量を聞かれ、店員が好意でこちらの望む長さに全て切ってくれることになった。「2時間後くらいにまたおいで」と言われ戻ってみると、すでに軽トラックに積まれており、今から学校に持って行ってくれるらしい。頼んでないことまでやってくれるような、日本では顔なじみの下町にしかないような親切さ、優しさをパラオの人々は持っている。

 トラックの荷台に大量の塩ビ管と一緒に乗せられ学校に戻ると、日本でいう校務員のようなおじさんたちに「明子のことだから全部抱えて帰ってくると思ったよ!」と笑われる。いつも徒歩で移動する私が荷台に乗せられて帰ってきたのが意外だったのと、迎えにいってやった方がいいのかと相談していたそうだ。協力隊員は基本的に車を所有することが許可されないので、移動手段を確保する必要がある。私は全て徒歩15分圏内で生活できるので、いつでも歩いていたが、歩くことを好まないパラオ人からすると「こんなに暑いし遠いのによく歩けるな」という気持ちだそうだ。

廃材を使って

 「買って作る」も一つの方法だが、「不用品で作る」がパラオではとても重要だ。先にも述べた通り、パラオは島国であることや自国に工場がないことから、生活に必要な品はほとんど輸入に頼っている。海が荒れれば4、5日は船が遅れ、食料品売り場に一つも野菜がないことがあったり、ネットショッピングで注文した品が予定より3カ月遅れてきたりこともある。また輸送中に物品が破損することもある。そんな状況から物価は高く、納品のめどが立ちにくい。

集めた段ボールのキャタピラー

 さらに、パラオは環境問題も大変深刻だ。パラオにはなんと焼却施設がないので、ゴミは回収された後、ゴミ捨て場と呼ばれる埋め立て場に運ばれ、ただゴミを積み重ねているだけなのだ。当然、そのゴミ捨て場も残り数年で限界がくると言われていた。そこで、普段ゴミにしてしまうようなビニール袋や新聞、ペットボトル、段ボールをリサイクルして道具が作れないかと考えた。職場の先生にお願いして、商店でもらったビニール袋や新聞を集めたり、スーパーで段ボールをもらったりした。

 「こんなもので何をするの?」と不思議そうにしていた先生たちだったが、新聞紙を丸め、ビニール袋に入れたものをテープできつく巻いてできたボールを見ると、「これなら小さい子たちが当たっても痛くないわね!」と大喜びして、放課後になると作るのを手伝ってくれた。

いよいよ本番

 もらってきた段ボールと、先生たちと作ったボールを使って、1年生が「玉入れ」を行った。籠を立てることはできなかったので、8年生が各チームの真ん中で籠を背負って走り回ることにした。1年生は8年生の背負っている籠に向かってボールを投げる。すると突然、保護者が乱入してきて、自分の子供の投げているボールが入らないからと、走り回る8年生を押さえ付けてしまった。これにはびっくりしたが、周りの保護者が「そういうルールだから」と諭していた。買った塩ビ管はつなぎ方を変えて長い棒として使い、「台風の目」のポールになった。この競技はパラオ人に大いに気に入られ、親子競技にもなった。

 運動会の最後の競技は昔から保護者対8年生の「綱引き」だそうだ。審判をした私は、ロープの真ん中を足で押さえていると、「位置について」の時点で両サイドからロープがぎりぎりと引っ張られているのを足裏で感じた。笛の合図で、ロープにものすごい張力がかかり、足をかけていた私は3㍍ほど後方に吹き飛んでしまった。これがパラオの綱引きだ。パラオでは運動会の大人気種目なので熱気がすごい。そしてパラオ人は体格が大きいのでパワーもすごい。2回戦は「あなたじゃ軽過ぎる」とのことで、5人のパラオ人がロープの上に乗っていた。

 子供たちはいつもと違うお祭りムードで楽しそうだ。みんなで体を動かし競い合う楽しみが、これからも続くと良いなと思う。

(川道明子=かわみち・あきこ 仙台市で小学校教員として勤務。現職教員制度を利用し、JICA海外協力隊としてパラオに赴任)

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