歌舞伎の裏方たちは、客席からは見えないとわかっていても、徹底的に道具にこだわる。
女形の髪を彩る飾りも芸術品のように美しいものばかり。遠くからでは見えない精緻な細工や使い方の決まりもあるという。女形専門の床山会社・光峯(みつみね)床山の関史(ふみ)さんに話をきいた。
訪れたのは歌舞伎座(東京・銀座)近くのビル。扉を開けると畳敷きの部屋が広がり、突如、職人ワールドが出現する。床山たちは劇場の楽屋に詰めることが多いが、ここが彼らのホームグラウンド。部屋の奥にはたんすがずらりと並び、その引き出しにはかんざしや櫛(くし)などがぎっしり詰まっていた。
女形の髪飾りは、大まかに分けると、棒状の足を髪に挿し込んで髪に固定するかんざし類、ちりめんや鹿(か)の子絞りなどの布類、木製の櫛、紙でできた短冊状の丈長(たけなが)などがある。
数ある飾りのなかでも、ゴージャスで目を引くのが「姫の前ざし」。大きな銀色のかんざしで「本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)」の八重垣姫などお姫様の役につけられる。歌舞伎ファンなら一度は見たことがあるはずだ。
眩(まばゆ)いそのかんざしに目を近づけると梅の花の集合体であることがわかる。役柄や役者の好みに合わせて大きさや色に複数のバリエーションがあるそうだ。
「通常は花が四段の五十八輪のものを使います。銀色なので金属だと思われるかもしれませんが、実は紙でできているんですよ」
これが金属だと相当重くなる。役者の負担を軽くするための配慮である。ただしビラと呼ばれる小さな短冊は金属で作られている。
「このかんざしには小さな蝶(ちょう)が飛んでいるんです。極小のバネが付いていて、役者さんが動くとわずかに揺れます。この蝶があるから立体感も出ますし、色気も漂います」
通常の役は菊などの花の模様を用いるが、特定の役だけにしか使わない特殊仕様のものがいくつかある。
渦を巻くようなモダンなデザインの手綱のくす玉もそのひとつで「神霊矢口渡(しんれいやぐちのわたし)」のお舟、「義経千本桜 すし屋」のお里の専用として用いられる。いずれも身分違いの高貴な人に惚(ほ)れてしまうという役どころ。渦は、その心境を表しているのだろうか。小さな道具だが、演者がその役になるための大切な鍵となっている。(伝統芸能の道具ラボ主宰・田村民子)
◆公演情報
<神霊矢口渡> 二十八日まで、歌舞伎座の「七月大歌舞伎」夜の部(午後四時開演)で上演中(十九日は休演)。娘・お舟(中村児太郎)の髪に手綱のくす玉が飾られる。チケットホン松竹=(電)0570・000489。Webでの予約は「チケットWeb松竹」で検索。
◆取材後記
この道22年の関さん。大学では国文学を専攻し、ゼミの授業がきっかけで歌舞伎を好きになったそうだ。「働くなら職人に」と考えていたところ、いいご縁がつながって床山になれたという。
髪飾りは消耗品で傷みも激しい。それを小まめに修繕するのも関さんたち床山だ。心を込めて作られ丁寧に扱われる道具たち。そこには魂が宿っているように感じた。(田村民子)
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