菊は長寿をもたらす花。
中国には、菊からこぼれた露が谷川となり、それを飲んだ村人が長生きしたという菊水伝説が伝わる。
これを踏まえて作られたのが能「枕慈童」(観世流では「菊慈童」)。能という芸能は、リアルな道具をあえて出さず、観客の想像に委ねる、というのが基本スタンス。だが、この曲では色とりどりの菊の花や、不思議な枕も出てきたりして、道具も見応えがある。
本番に向けて、どのように道具を整えていくのか。シテ方金春流能楽師、本田布由樹さんに話を聞いた。
「枕慈童」は秋の物語。
まず、何もない能舞台に菊のお花畑のような装置が厳かに運ばれてくる。造花を用いることが多いが、生花の場合もある。馥郁(ふくいく)たる空間が広がったところから、能がはじまる。
どんなお話なんですか?
「山の中で、仙人のような少年に出会って、めでたく終わる。おとぎ話のようなストーリーです」
主人公は、その少年(慈童)。仕えていた帝の枕をうっかりまたいでしまい、その罪で流刑となり山奥にいる。年齢は、聞いてびっくり七百歳。でも、少年は若々しい姿のままだ。
その若さの源泉は、帝から形見としてもらった枕。ありがたい経文が添えてあり、それを菊の葉に書き写すと露が滴り、不老不死の薬になったという。金襴(きんらん)の布に包まれて、宝箱のように美しい枕だ。
「公演ごとに手作りします。布は何種類かあって、どれにするか考えて選び、針と糸でチクチクと縫って準備します。これも能楽師の修業の一つです」
本田さんが持ってきてくれた枕を測ってみると、長辺は四十四センチ。意外と重い。この箱状の枕を、シワひとつ入れずに、ぴたっと包みながら縫い上げるには、技量が必要らしい。
「枕にも前後左右があるんですよ。舞台では能面をつけて視界が狭くなりますが、自分で作ると縫い目の手触りで枕の向きもわかって安心です」
もうひとつ注目したいのが、唐団扇(うちわ)。相撲の軍配に似た道具で、能では中国人の役が持つという決まりになっている。薄く透ける布に絵が描かれているが、龍や花、獅子など図案はさまざま。丸っこいフォルムがかわいらしく、おおらかな美しさを感じる道具である。(伝統芸能の道具ラボ主宰・田村民子)
◆公演情報
「第29回青翔会」
十月十八日午後一時、東京・国立能楽堂。能「枕慈童」(シテ・本田布由樹)。ほかに舞囃子三番。能楽研修生や研修修了生が多く参加する。一般九百円など、学生六百円など。九月十日から予約開始。国立劇場チケットセンター=(電)0570・079900。ネット予約は「国立劇場チケットセンター」から。
◆能楽研修生募集
能や狂言の舞台に出演するプロの演者や演奏者を育てるための国立の養成所があることをご存じだろうか。教室は、国立能楽堂(東京都渋谷区)内にある。一流の先生が指導し、受講料は無料。6年間かけてみっちり学べるカリキュラムが組まれている。現在、来年4月からはじまる第12期の能楽(三役=ワキ方、囃子(はやし)方、狂言方)研修生を募集中。応募期間は来年2月末まで。問い合わせは、国立能楽堂養成係=(電)03・3423・1483。
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