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<新お道具箱 万華鏡>歌舞伎の刀 日々細部に気配り - 東京新聞

尾上松三さん(左)、坂東家之助さん

尾上松三さん(左)、坂東家之助さん

 歌舞伎の刀は、小道具のなかでも特に重要で、登場頻度も高い。この役にはこの刀というふうに、細かい約束事もある。

 舞台道具なので、毎日使えば汚れていく。それを手入れして、きれいな状態で舞台に出せるようにしているのは誰か?

 小道具の分類の話になるが、刀のように俳優が手に触れたり身に着けたりするものを「持道具(もちどうぐ)」と呼ぶ。これらは公演期間中、俳優がそれぞれの楽屋で管理している。そして、公演チラシに名前が載るような俳優は、本人ではなく若い弟子が道具の手入れをしているのだ。

国立劇場での歌舞伎俳優研修の様子(国立劇場養成課提供)    

国立劇場での歌舞伎俳優研修の様子(国立劇場養成課提供)    

 日ごろ、どんなふうに刀を扱っているのか。実際に刀を見ながら、市村家橘(かきつ)門下の坂東家之助(やのすけ)さん(25)、尾上松緑(しょうろく)門下の尾上松三(しょうぞう)さん(23)から話を聞いた。

 「刀は、本物の真剣だと危ないので竹光(たけみつ)です。手に白粉(おしろい)を塗られているときは、鞘(さや)や柄(つか)に付くこともありますので、汚れが残らないように拭き取って、翌日の舞台に備えます」(家之助さん)

「引窓」濡髪長五郎の刀(上)、「角力場」放駒長吉の刀(中)。俠客(きょうかく)が差す一本差しの刀(下)と並べると太くて長く、提緒も大ぶり(取材協力=藤浪小道具)

「引窓」濡髪長五郎の刀(上)、「角力場」放駒長吉の刀(中)。俠客(きょうかく)が差す一本差しの刀(下)と並べると太くて長く、提緒も大ぶり(取材協力=藤浪小道具)

 竹光とは、木に下地を塗り薄い金物の箔(はく)を貼った刀身。本物らしく見えるように、白粉で波紋の模様を付けることもあるそうだ。ちなみに「籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)」など刀が特に重要な役割を担う演目では、刃(やいば)をつぶした真剣が用いられる。

 刀の鞘には、提緒(さげお)という紐(ひも)がついているのをご存じだろうか。松三さんは、その提緒に特に気を配っているという。「提緒は重ねて巻いてありますが、ズレてしまうことがあります。きっちりきれいに重なっているか、必ず確認します」

 提緒は、単なる飾りではなく、帯に差す時のストッパーの役目をしているほか、捕縛するときに縄にしたり、襷(たすき)として用いたりすることもある。客席からは見えにくいが、色もさまざま。観劇の際、ちょっと気に掛けてみると楽しい。

「角力場」放駒長吉の刀。組みひもで作られた提緒が結ばれている。玉子鞘と呼ばれる凝った作り

「角力場」放駒長吉の刀。組みひもで作られた提緒が結ばれている。玉子鞘と呼ばれる凝った作り

 さて、このお二人。ふだんは小さな役が多いが、八月の「稚魚の会・歌舞伎会合同公演」では大役に挑戦する。演目は相撲取りの世界を描いた名作「双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)」。「角力場(すもうば)」の放駒長吉(はなれごまちょうきち)を家之助さん、「引窓」の濡髪長五郎(ぬれがみちょうごろう)を松三さんがつとめる。どちらも主役級の力士の役で「角力差し」と呼ばれる太い刀を差す。玉子鞘という凝った細工の鞘。滅多(めった)に差せない立派な刀に、二人とも心をはずませていた。(伝統芸能の道具ラボ主宰・田村民子)

◆公演情報

 第28回 稚魚の会・歌舞伎会合同公演

 八月十二〜十六日午後一時、国立劇場小劇場(東京都千代田区)。「双蝶々曲輪日記」(角力場・引窓)、「俄獅子(にわかじし)」。十八日から予約開始。国立劇場チケットセンター=(電)0570・079900。ネット予約は「国立劇場チケットセンター」から。

◆取材後記

 一般家庭出身の人が歌舞伎俳優になるには、幹部俳優に直接入門する方法と、国立劇場での歌舞伎俳優研修を経て入門する二つの方法がある。松三さんは、17歳の時に尾上松緑に入門。家之助さんは、20歳で歌舞伎研修生に応募。経緯は異なるが、こういう若い人がいるからこそ歌舞伎の公演、そして歌舞伎界が成り立っている。家之助さんは、しっかり者。松三さんは、ほっこりタイプ。お2人とも道具愛に溢(あふ)れていて、取材に同席した小道具さんも嬉(うれ)しそうだった。 (田村民子)

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