「世の中をあっと言わせる企画を作りたい」「自分の夢を仕事で実現させたい」「ユーザーの気持ちがわからない」「企画書が通らない」「プロジェクトを成功させる方法が知りたい」など商品開発や新規事業を生み出す上でのあらゆる悩みを解決!
本連載の著者は「千に三つ」や「一生涯一ヒット」と言われる食品(飲料)業界において「氷結」「スプリングバレーブルワリー」「淡麗」「キリンフリー」など数々のヒット商品を生み出してきた和田徹氏。実は入社から12年間、ヒット商品ゼロだったという著者。なぜ、失敗だらけだった人が、ヒット商品を量産できるようになったのか? 売れ続ける商品づくりの全技法を明かしたのが『商品はつくるな 市場をつくれ』(3月15日刊行)という書籍です。刊行を記念し、本書の一部を特別に公開します。
お気に入りの7つ道具を大公開
何をするにも、まず形から入るクセのある私は、企画書を書くにも、お気に入りの道具があります。
主に道具にこだわるのは「自分向けの企画メモ」を書くときです。
この段階では、自分でさえ見たことのない「新しい何か」を生み出すために、頭をフル回転に働かさなくてはなりません。だから道具たちにも、私を助けてほしいのです。
まずはアナログで進めます。かなりまとまってきたところで、パワーポイントやワードを使いますが、スタートは、紙に手描きが基本です。
私はデジタルデバイスが大好物で、この40年間一日としてキーボードを触らなかった日はないほどです。でも、企画を書くときのファーストタッチは、紙に手描き。
これは絶対に譲れないマイルールです。
クリエイティブな気分を盛り上げる「筆記具」
道具1 鉛筆
やわらかい芯のBや2Bを太めに削って使います。力の入れ具合や角度で、強い文字でもボンヤリした文字でも書き分けられるのがいいです。2mmほどの極太シャープペンシルもお気に入りです。とりあえず手を動かしながら考えるのにも適しています。
道具2 フリクションペン
こまごまとしたアイディアをあちこちに書き加えたり直したりできるのが、PILOTの「フリクション ボールノック」です。太く滑らかな0.7mmが企画書には向いています。インクの色はブルーブラックで、ちょっと万年筆のような艶やかな色合いがお気に入りです。書き心地の良いペンです。
ちなみに普段は、替芯をLAMYの「サファリ ローラーボール スケルトン」に詰め替えて愛用しています。長さが違うため、詰め物を入れて自作しました。クリエイティブ気分が盛り上がります。
道具3 フェルトペンやカリグラフ系のペン
企画書の真ん中に置きたい文字、重要なコンセプトを示す言葉を書きます。クリエイティブな気分を上げたいときにも良いです。フェルトペンは「ゼブラ クリッカート(ブルーブラック)」、カリグラフ系のペンなら「呉竹 ZIG カリグラフィーⅡ」を使っています。
ちょっとオシャレにアーティスト気分になったり、泥くさい人情味のある文字を書いてみたり、企画案に雰囲気、感情や表情、芸術性を込められるのがいいです。
筆記用具を変えると、書く内容だけでなく、発想も変わってきます。ペンを変えて、企画をさらにブラッシュアップするというやり方もあります。
アイディアがどんどん生まれる「ノート」
道具4 方眼レポート紙
1枚だけで勝負したい企画書には、オキナの方眼レポート用紙「プロジェクトペーパー(A4) 5ミリ方眼」を使います。文字を罫で囲むことが多いので、薄く細かい方眼があると書きやすいからです。中央や、間隔をそろえやすい利点もあります。
方眼を目の前にすると、その空間の中で全体像や概念をロジカルに表そうとする意欲が高まります。
道具5 太めの罫線レポート用紙
レポート用紙には、どんどんアイディアを書いていきます。太めの罫線が良いですが、あまり罫線を気にせず、ぐちゃぐちゃと書いています。市販品以外にも会社や広告代理店さんなどの社用便箋を使うこともよくあり、テーマに応じて気分で選びます。
道具6 モレスキン(ノートブック)
ノートは、モレスキン社の「ハードカバー ノートブック ラージ(黒)」のスクエアード(方眼)タイプを使っています。一冊3000円弱はやや高い出費ですが、持ち歩くとき、机に置いたとき、開いた瞬間などに心がときめき、テンションが上がるものだからこそ、アイディアも書きたくなります。だから、コスパが悪いとは思いません。
そこに書き連ねる作業が、「未来に輝く原石をストックしている」と思わせてくれるのも良いところです。つくりがしっかりしているので、本棚などできちんと長期保存できます。
ここぞ、という企画案を書く際は、贅沢に見開きの右側だけを使うようにします。というのも、たいてい、後から内容を加えたくなったり、補足しながらアイディアをブラッシュアップしたくなったりするからです。そんなときにページがギッシリ詰め詰めの状態になっていると、スペースが足りません。
また、片側が余白で残っていると、後々書いた企画を探す際に、見つけやすくて便利です。
情報整理はたった2つの「フォルダー」でOK!
道具7 フォルダー(個別フォルダー)
企画書の整理には、コクヨの「個別フォルダー」を使っています。2つ折りの厚紙でできていて、書類をその間にポンポンと挟み込んでいくだけ。
用意するのは「Wada's Paper」と「Good Paper」の2種類です。
「Wada's Paper」は、自分が書いた企画書専用。「Good Paper」は、ほかの人のアイディアシートや良い企画書などの永久保存用です。
普通は、プロジェクトやテーマ・項目ごとや、時系列で分けることが多いのですが、企画メモだけは特別待遇。あえて複数プロジェクトを一緒に収納して、フォルダ内を「脳の中のごった煮スープ」と同じ状態にしています。
「そうだ、あの企画のアイディアが参考になるかもしれない。ちょっと見てみよう」などと言いながらAという企画書を取り出そうとして、ふと目にしたGという企画書のアイディアに惹かれてしまう。そんな偶然の出会いも起こります。
(本原稿は、和田徹著『商品はつくるな 市場をつくれ』を編集・抜粋したものです)
和田 徹(わだ・とおる)
スプリングバレーブルワリー ファウンダー(前社長)
元キリンビール(株)エグゼクティブ・フェロー
1961年新潟県小千谷市生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。学生時代、AIなどのコンピュータープログラミングの未知なる世界にハマりつつも、洋酒・ワインの彩り豊かで奥深い世界とライフスタイルに魅せられ、85年キリン・シーグラム(株)に入社。4年間の営業経験の後、マーケティング部でウイスキー、スピリッツなどのマーケティング、新商品開発に携わる。斬新でスタイリッシュな商品で世の中を驚かせようと果敢にチャレンジするも、ほとんどの商品が全く売れず。営業時代を含め、ヒットとは一切無縁の12年間を過ごす。
転機は97年。キリンビール(株)マーケティング部商品開発研究所で、同社初の発泡酒「麒麟淡麗〈生〉」を開発、史上空前のヒット商品に。2000年にはチューハイ市場参入プロジェクトのリーダーとなり「キリンチューハイ氷結」の開発を指揮し、大ヒット。その後シリーズを拡充。立て続けにヒットとなる。07年、キリン創業100周年プロジェクト「キリン・ザ・ゴールド」の開発を任されるも失敗に終わり、ビールよりも苦い思い出を残す。その後、飲酒運転やアルコールによる事件・事故を完全にゼロにしたいという強い想いから、世界初の完全ノンアルコールビール「キリンフリー」を開発。世界的なノンアルコール市場(0.0%市場)創造の火付け役となる。
11年、クラフトビール市場をつくり変える社内ベンチャー「スプリングバレーブルワリー」プロジェクトを立ち上げ、スプリングバレーブルワリーの代表取締役社長に就任。クラフトビール事業と飲料・食品業界の「クラフト」市場の飛躍的拡大をリード。東京・代官山、横浜、京都などに店舗を展開。現在は同社を退職。2020年、NPO政策塾「一新塾」卒塾(45期生)。現在は「0→1(ゼロイチ)」の市場創造・イノベーションの知見を活かし、商品づくりコンサルタントとして活動中。「For the Planet Inc.(フォー・ザ・プラネット合同会社)」を創設、代表を務める。生涯のビジョンである「世界平和」や地球環境保全、より良い社会を実現する新たなプラットフォーム構築を鋭意画策中。本書が初の著書。
才能は不要。
誰でも、世の中をアッと言わせる商品をつくれるようになる
――著者からのメッセージ
私はこれまでの30年余りで、チューハイ「氷結」、クラフトビールの先駆けとなった「スプリングバレーブルワリー」、発泡酒の「麒麟淡麗〈生〉」、世界初のアルコール0.00%ビール「キリンフリー」などを手掛けてきました。幸いにも数多くの大ヒット商品に恵まれ、その総売上は、およそ9兆円となっています。
これまで、独自のマーケティング理論や法則をまとめたことはありませんでした。しかし、実はこれらの商品には共通点があります。「まだ見ぬ市場をつくった」商品であること。競合商品の追随ではなく、圧倒的なオリジナリティで、新たな市場を生み出してきたこと。これこそが、大ヒット商品を連発してきた秘訣です。
本書では、「市場を切り拓く商品のつくり方」を若手からベテランまで誰でも今日からすぐに実践できるよう一冊にまとめました。
市場をつくる骨太な商品の24の技法を、4つのパートに分けて説明します。「淡麗」や「氷結」などの成功事例だけを紹介するだけでなく、売れなかった商品のどこがダメだったのか、どう考えればよかったのかの失敗事例の分析までも徹底的に解説しました。さらに、発売に至らなかったボツ企画の直筆メモまで掲載しています。
大ヒット商品「連発」の秘訣――商品づくりの4要素
第1章 未来の市場のド真ん中を射貫け
競合ではなく、未来を見る考え方について、「淡麗」「氷結」「キリンフリー」の実例と共に解説します。これまで連発してきたヒット商品には、すべてこの考え方が通底しています。
より良い商品をつくるなら、いきなり商品のことを考えてはいけません。まずは、未来を構想する必要があるのです。「氷結」の初期構想のスケッチを参考に、自分がつくる商品の未来を考えてみましょう。
第2章 「偶然のひらめき」を呼び込む習慣
今までにない、真にオリジナルなアイディアの発想法を紹介します。変化に惑わされず、市場をつくるロングセラーには欠かせない不変の法則をつかむ方法もわかります。
商品の着想を得るにも、それを実現させる方法を考えるにも、具体的なアイディアが必要です。「なかなか、良いこと思いつかないなぁ」という方も多いのではないでしょうか。私も、アイディアがどんどん出てくる天才型ではありません。だからこそ、人一倍アイディアを生み出し、記録する方法を考えてきました。
第3章 企画書で商品は磨かれる
「企画書は、魅力的な提案をするために使うもの」と思っていませんか? 私の場合は違います。商品を「磨き上げる」ために使うのです。思いついたままのアイディアは、まだまだ弱く頼りないもの。骨太な商品にするために、あらゆる角度から検証します。「こんなコンセプトや企画書、人に見せられない……」と悩んでいるなら、この方法で企画書を書いてみましょう。
「スプリングバレーブルワリー」構想時の企画書や、いつも使っているお気に入りの道具たちも大公開します。誰でも、唯一無二の強い商品に仕上げられるようになります。
第4章 純度を保ちながら、化学反応を起こす
最終的に商品の明暗を分けるのはチームワーク。お客様が感動し、市場をつくり変えることができる100点満点以上の商品は、一人ではつくれません。チーム運営や一緒に働く人の才能の引き出し方など、人の力を借りて、想像や常識の上をいく商品をつくる方法を解説します。逆風に立ち向かった「氷結」開発時には「ある言葉」でチームをまとめあげたのです。
あるいは、せっかく「この商品や提案は、絶対おもしろい!」とひらめいたのに、「決裁をもらえるように、ここは変えてしまおう」などと考えてしまっていませんか? そうせずとも、組織の中で提案を通す秘訣をお伝えします。
さらに「スプリングバレーブルワリー」は、お客様(ファン)さえも巻き込み、化学反応を巻き起こしています。発売後も現在進行形でつくり上げている商品なのです。
誰でも、ヒット商品はつくれる!
これらはすべて、ダメ社員から抜け出し「ヒットメーカー」と呼ばれるようになるまで、日々工夫し、実践してきたやり方です。地頭が良いとか、いま仕事ができるとか、そんなものはたいして関係ありません。大事なのは、どれだけ「良い商品をつくりたい」「より良い未来を届けたい」と考え抜くかです。
誰でもいつか必ず、良い商品、ヒット商品、ロングセラーがつくれる。それどころか、より大きな新しい市場だってつくれると、私は信じています。
それではさっそく、社会を、未来をより良いものに変える商品づくりを始めましょう!
本書の主な内容――商品づくり24の技法
第1章 未来の市場のド真ん中を射貫け
1 商品づくりは、市場づくりだ
2 未来を先取る構想づくり――「淡麗」「キリンフリー」のケース
3 ロングセラーをつくる2つのアプローチ
4 マイミッションを起点に
5 何度も問い直す商品づくり「3つの質問」
6 5W1Hではなく「1W+4W1H」で考える
第2章 「偶然のひらめき」を呼び込む習慣
7 アイディアは「セレンディピティ」で爆発する
8 インプット、インプット、とにかくインプット
9 ひらめきを呼ぶ5つの「ユリイカ!」モーメント
10 大きな変化と先行市場を探す
11 骨太な商品には「愛」がある
12 「X人格」になりきる
13 想像力が飛躍するエクストリーム発想術
第3章 企画書で商品は磨かれる
14 まずは、自分に向けた企画書を
15 書き始めるための5つの秘策
16 企画の7つ道具
17 真っ白な紙に、まず1行
18 アイディアを結晶化し、磨く
第4章 純度を保ちながら、化学反応を起こす
19 チームを企みに巻き込む
20 チームをまとめる言葉をつくる
21 組織の壁を突破する「提案書」
22 最強の商品は才能のかけ算で生まれる
23 ファンさえも商品づくりに巻き込む
24 ヒットで安心しない
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