午前8時半前、熊本学園大(熊本市)前のバス停。到着した路線バスに出迎えの男性ヘルパーが乗り込み、電動車いすの中山智博さん(19)=同大社会福祉学部1年、福岡県筑後市=とともに降りてきた。息つく間もなくヘルパーが車いすを押し、2人で大学構内に向かって走りだす。
【写真】1時限目の直前、研修会に自ら申し込みの電話をする智博さん。ヘルパーにスマホをかざしてもらう
トイレ介助に約10分。別棟でリポートを提出し、エレベーターで7階へ。1時限目の教室に入る前、智博さんはこの日、ある研修会への参加を自ら電話で申し込んだ。顔の前にヘルパーからスマートフォンをかざしてもらいながら-。
ヘルパーの朝の付き添いは30分。「毎日私は(時間と)戦ってる」。智博さんは、そうおどけてみせた。
事業者探しに奔走
同県立福島高(八女市)から同大に進学した智博さん。肢体が不自由なため、両校の教職員が仲立ちする代筆受験が認められ、小論文の試験を突破した。
合格が決まったのは2018年、高3の冬。学級単位での支援が可能な小中高と異なり、大学は自宅から距離もある。新たな課題は、食事やトイレの介助を含め、通学や学内生活の支え手の確保だった。小中高と智博さんを支えた教員らに加え、障害福祉サービスの相談支援専門員や筑後市の担当者が知恵を絞った。
着目したのは市町村がヘルパーを派遣して重い障害のある大学生を支える「修学支援事業」。障害者差別解消法の施行を背景に、国が18年度から補助事業としてスタートしていた。
制度化には財源のほか、実際に対応するマンパワーの確保もハードルとなる。専門員と同市は大学側を通じて熊本市内のサービス事業者探しなどに奔走。智博さんもJR筑後船小屋駅から1人で大学に向かい、介助なしで移動できるか試した。
結果、登下校時は「熊本市内のヘルパーを朝夕30分のみ、筑後市の福祉予算で派遣する」と決定。自宅から同駅までは母順子(のぶこ)さん(54)が車で送る。同駅から新幹線で熊本駅、同駅前から路線バスで大学前まで智博さんは1人で移動する。「でも駅員さんが改札からホームまで付き添って、帰りも『今日は遅いねえ』と心配してくれる。いろんな方が見守ってくれてありがたいです」(順子さん)
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