大学の講義や授業で使う教材といえば、長年支持されているその道の教科書か、あるいは教鞭を執る教授や講師自身が執筆した本というケースが多い。講義に用いるプレゼン資料をそのまま印刷して配布することもあるだろう。
そんな中、講義の教材としてスマートフォンアプリを自主制作した教授がいる。東京農業大学で大学1年の有機化学を教える、松島芳隆教授だ。
アプリは「有機化学 基本の反応機構」というタイトルで、iOS/Android版を用意。反応式における矢印の意味といった基礎の基礎から、カルボニル基への求核付加反応、アルドール反応といった学部レベルで学ぶ有機化学の一通りの内容まで、動画で各章を学べるようになっている。日本語と英語に対応しているため、英語で学べば論文の読解や執筆にも生かせる。ここまで入って、価格は600円(税込)だ(iOS版は610円)。
講義の教材としては指定教科書もある。講義に用いているプレゼン資料は紙に印刷して配布もしている。既存の教材だけでも学ぶのに問題はなさそうだが、教材をアプリで作った狙いは? 松島教授に聞いた。
ただの絵では「矢印の動き」が分かりにくい
「授業では、アプリにあるようなスライドを見せています。もちろん、昔は黒板に書いていたのですが、面倒で。まずは講義内容を紙からPowerPointに移植し始めました」(松島教授)
化学反応式を黒板に書くと時間がかかってしまい、学生側も書き写しに必死だった。また、スライドのコピーと自分のメモだけの場合、初学者の場合は反応の順序が分からなくなりがちで復習も難しくなる。先生側が板書で何かミスをした場合も、後からどこでミスがあったか調べたり周知したりするのが難しい。手書きで化学反応式を教えるのは、双方で効率が悪かった。
「アプリの各項目は動画です。授業のスライドを動画にしたといってもいい。ゆっくり再生するので、分からなければ戻って見直すことができます。あるいは自分で動画を止めて、反応式を書いてみてから再生して、正解を確かめることもできます」
「これが、ただの絵だと学習が難しいんです。イオンが炭素を攻撃して、炭素が脱離基を離す……という矢印の動きや順序が、慣れないと分からない。このアプリでは動画で反応の流れが分かるようになっていて、好きなところで動画を止められるから、自分で覚えていけます」
動画で反応を見返せるようにしようとしたのは、松島教授自身の体験からきている。学生当時にはもちろんスマホはなく、必死に書き写していたが、上述したような問題で学習が難しいと感じていた。そのため、教科書など紙の資料では分かりにくい部分をスライドやアプリで補おうと考えた。
「このアプリがあると、書き写す時間が減るので、講義中は話を聞いてくださいといえるんですね。学生は話を聴きつつ、後でアプリを見て復習できる。黒板に書いて、書き写して、というのはやはりとても時間がかかります。板書もしながら頭を動かして理解するとなると、どうしても追いつけないという学生も出てきます」
教科書は学ぶべきことを俯瞰して各論を読んでいけるが、紙面上の都合などで反応順序の詳細が省かれることもままある。講義に用いるスライドでは反応機構の省略されがちな部分まで動画で説明しており、それを後から何度でも再生して復習できるのがアプリ、という役割分担だ。
上述したが、アプリは日本語だけでなく、英語表記にいつでも切り替えられる。「有機化学の研究をやっていくなら、『フィッシャー(Fischer)』や『グリニャール(Grignard)』といった有名な単語はカタカナではなく英語でも覚えておいてほしいです。講義中にはいちいち英語を挟めないので、アプリを英語に切り替えることで学んでもらえたら」と松島教授は言う。
学生の反応は「最初は高いと思った」
松島教授のアプリは、講義を受ける上で必ず買わなければいけないというものではないが、教科書指定としてシラバス(講義・授業計画)には載せているという。
「2018年以前はアプリもあるよ、としか言ってなかったんです。ただ勉強してくれない人に限って教科書は読まない、アプリも買わない。基礎が分からないと試験もどうにもならないので、シラバスに載せることにしました」
600円というアプリの価格は、学生の目にはどう映るのか。
講義後に無記名のアンケートを行ったところ、「600円という価格は最初は高いと思った」という声が聞こえてきたという。
「今の学生は、スマホゲームには課金しても有料のアプリを買うのはハードルがあるみたいですね」と松島教授は受け止めている。
しかし、買ってくれた学生からは「分かりやすかった」という声も。「講義の初めから買って使っているというよりは、試験が目前になって『こんなものがあるらしい』と試験対策に使っている学生さんもいるみたいです」
松島研究室に所属している修士課程1年の小川由香子さんも、アプリユーザーの一人だ。
「最初は高いと思ってスルーしていたんですが、商品のキャンペーンでApp Storeで使えるコードが当たったので、そのポイントで買いました」と、価格感については正直な感想を話す。
「院試のときに復習に使いました。教科書だけだと分からない矢印の動きが分かって、紙よりも覚えやすかったです。移動中に気軽に勉強できたのもいいですね」(小川さん)
開発費は回収済み 海外やTwitterから売れることも
気になるのは、アプリを自主制作した上でかかった費用だ。アプリ開発自体は外注したもので、「外注費は自分のお小遣いでなんとかしましたが、有料で販売しているため、すでに回収はできました」と、具体的な費用や販売数について具体的な数字は伏せたものの、開発費のペイはできていると松島教授は語った。
購入のほとんどは日本からだが、英語に対応しているためか、米国など海外からの購入もたまにあるという。
Twitterで宣伝していることもあり、時折有名な人がリツイートしてくれるとそのタイミングで売上が増えることもあるという。学生向けに作ったアプリではあるが、海外やネットなど、思わぬところで反響を広げている。
現代の小中学生の学習環境では、教材にPCやタブレットを使用する事例はもちろんのこと、企業や個人がYouTubeで配信している講義コンテンツを見て学ぶというスタイルも増えてきている。
大学の講義も、講師がITを用いながら工夫していくことでだんだんと変わっていくのかもしれない。
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