食卓を彩る洗練されたテーブルウエアとして、日本の急須が、海外で急速に存在感を高めている。国内の代表的な産地で日本六古窯(ろっこよう)の一つ、愛知県常滑(とこなめ)市を中心に職人らが手がける急須も注目の的だ。海を渡り以前から米国や中国などで使われてきたが、ここ数年、欧州での日本茶ブームを追い風に、テーブルウエアの「世界的トレンド」を探る各国のバイヤーからも一目置かれている。 (滝沢学)
◆注文が舞い込んだのはスイスからだった
「現地の人を意識して作ったわけではないが、和の雰囲気を感じ興味を持ってもらえたのなら、うれしい」。今年に入り、常滑焼の急須作家、清水小北條(こほくじょう)さん(47)の作品が届けられた先は、中世の歴史的な面影を残す美しい街だった。
常滑焼急須の陶工作品を幅広く展示販売する横浜市中区元町の「MWL STORE」のオーナー、百々徹(どど・とおる)さんは「注文を頂いたのは、スイス東部にお住まいの男性から。最近、急須への関心が海外で非常に高まっていると感じる」と話す。
◆煎茶をおいしく 「芸術品」と絶賛
注文に先立ち、画像共有アプリ「インスタグラム」のダイレクトメッセージで寄せられたこの男性の質問からは、「日本の急須で煎茶をおいしくいれたい」との強い思いがうかがえたという。小北條さんの急須について、制作の「技法」や「土の種類」などを細かく尋ねてきたからだ。
男性は煎茶やほうじ茶も併せて注文し、後日「すごくおいしかった」と感謝のメッセージを寄せた。茶器の収集が趣味で、その大半が日本のものだという。
「昔から日本の物づくりに憧れていて、機能的なアートのとりこになっている」と絶賛。小北條さんの急須の魅力について「自分にとっては単なる茶器ではなく、複雑で入念に作り込まれた芸術品。細部まで愛情と気配りが感じられる」とつづった。
店に日本茶と紅茶のインストラクター資格を持つスタッフがいて、自身も茶農家や急須作家を訪ねる百々さん。「日本茶や急須の魅力をしっかり伝えていければ」と話し、増えつつある海外からの問い合わせに丁寧な対応を心がけている。
常滑焼 平安時代後期から1000年の歴史を有し、現代まで生産が続く「日本六古窯」の焼き物の一つ。鉄分を含む陶土は、釉薬(ゆうやく)をかけず固く焼き締めることが可能。主力商品の急須の生産は、煎茶の流行に伴い江戸時代後期から盛んになり、200年以上の歴史がある。明治初頭、中国東南部にあり「陶の都」と呼ばれる宜興(ぎこう)の文人、金士恒(きんしこう)が本格的な急須の製法をもたらしたとされ、常滑の陶工がろくろ技法を組み合わせさらに発展させた。
◆「世界的トレンド」選出の快挙
1月下旬、常滑焼の急須はドイツ・フランクフルトで開かれた世界最大級の見本市「アンビエンテ」でも一躍脚光を浴びた。
各国のバイヤー向けにテーブルウエアやギフト用品などの最新トレンドを発信するこの見本市で、素材や形などに特に秀でた製品と認められ、特別枠の展示や講演で紹介されたからだ。
最新トレンドに選ばれ、さらに特別講演で「逸品」と紹介される品は、アンビエンテに出展した約4000社のうちの1%にも満たない。まさに快挙といえる。
◆「職人の手仕事に敬意」
常滑の若手実力派作家3人と製品デザイナーによる「chanoma Ⅱ」を出展した常滑焼急須の産地問屋「丸よ小泉商店」(愛知県常滑市鯉江本町)の営業本部長、岩附(いわつき)由加里さんは、テーブルウエアとして急須に深い関心が寄せられる背景として「職人の手仕事に対する深い敬意や、焼き物への高い評価がある欧州の文化性」を挙げた。
今回の出展では、ドイツなど欧州各国や北米、韓国、中東のアラブ首長国連邦(UAE)など約20カ国から引き合いがあったという。
「十数年前まで、日本の急須は海外ではあまり知られていなかった」。こう話すのは、常滑陶磁器卸商業協同組合の事務局長、赤井忠治さん。「欧州では2010年代に盆栽鉢がブームになり、見本市などに急須も並べて一緒に紹介していた。近年は、急須が単独で、テーブルウエアとして認知されるようになってきている」と指摘する。
日本の緑茶輸出額も伸びており、財務省の貿易統計によると、2023年は前年比33.3%増の292億円。4年連続で過去最高を更新した。
清水小北條 急須作家とモデル業の二刀流
小北條(こほくじょう)は陶号。本名は孝幸。大学2年の時からモデルの仕事を始め、主に企業の製品やサービスを紹介するテレビCMなどに出演する。セントラルジャパン(本社・名古屋市中区栄)所属。30代半ばで、愛知県常滑市の無形文化財で常滑焼伝統工芸士の父、清水北條(ほくじょう)さん(78)の手ほどきを受け、モデル業との「二刀流」で、本格的に急須づくりを始めた。
◆地元愛?意外な道具
一方、自身の急須がスイスに渡った小北條さん。「どこを気に入ってくださったのか」と興味津々。和の感性を刻むのは、意外な道具だ。
急須のふた。つまみ周囲の点描に使うのは、常滑沖で釣り上げた魚の骨。「(体長40センチ前後になる)キジハタの骨が、適度なしなりがあって彫りやすい」。地元産のものを使うと「気分が上がる」とも話す。
茶切れのよさと精緻な作りが命の常滑焼の急須。「そこに自分の感性を映したい」と取り組む作品が今、海を渡り各国の日常生活に溶け込み始めている。
約200年の常滑の急須の歴史の中で「時代、時代の革新(的な手法)が、やがて伝統となった。自分もその歴史の一こまになれれば」。小北條さんの願いだ。
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