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<新お道具箱 万華鏡>文楽の衣裳 人形用の特殊な仕立て:東京新聞 TOKYO Web - 東京新聞

文楽「菅原伝授手習鑑」北嵯峨の段。笠(かさ)をかぶり大黒袴をはいた山伏姿の松王丸(左)が現れる(国立劇場提供)

文楽「菅原伝授手習鑑」北嵯峨の段。笠(かさ)をかぶり大黒袴をはいた山伏姿の松王丸(左)が現れる(国立劇場提供)

 文楽人形の体は、ほぼ空洞。がっしりとした骨格があるのは肩と腰だけだ。それに三人の人形遣いがあちこちから手で支えて操っている。それを自然な人間の姿に見えるように、文楽の衣裳(いしょう)には特別な工夫が凝らされている。

 人間の着物とどんな違いがあるのか。国立文楽劇場(大阪・日本橋)で、衣裳を担当する木下幸子さんに話を聞いた。

衣裳部屋の棚

衣裳部屋の棚

 人形の背の高さは百三十~百五十センチ。その衣裳は子ども用の着物と同じくらいのサイズだ。最も大きな特徴は、背中に大きなボタン穴のような切れ目があること。

 「人形遣いさんが手を入れるための穴で、背穴と呼んでいます」

 背穴の長さは、通常は鯨尺の五寸(約十九センチ)。首(かしら)と人形の右手を扱う主遣(おもづか)いが、この背穴に左手を差し入れ、胴串(どぐし)と呼ばれる仕掛けの操作棒を握る。背穴があるからこそ、首を動かしたり表情を変えたりすることができる。

赤姫(公家などの娘役)の衣裳。後ろ身頃には人形遣いが手を入れるための背穴が開けられている

赤姫(公家などの娘役)の衣裳。後ろ身頃には人形遣いが手を入れるための背穴が開けられている

 もうひとつの特徴は、綿を使うこと。木綿の綿を薄くのばし、着物全体に平均的に入れてある。綿入れちゃんちゃんこよりもうんと薄い。この綿のおかげで柔らかな肉体があるかのように感じられるのだ。

 女形の膝用の綿というものもある。女の人形には足がないものが多い、つまり腰から下は、中身はからっぽ。だが正座をしたときにはいかにも膝があるように見える。これは人形遣いの足遣いが腕で膝の形を作っているからだが、ここでも綿が活躍している。

 「ふっくらした膝に見えるように、膝のあたりにだけ綿を重ねた膝座布団を仕込んでいます」

 訪問したのは七月初旬。八、九月公演で五十一年ぶりに上演される「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ) 四段目(北嵯峨の段)」の松王丸の袴(はかま)を縫っていた。ニッカーボッカーのような裾の膨らんだ形で、大黒袴(だいこくばかま)という。

松王丸の大黒袴を縫う木下幸子さん。ドーナツ状の綿を準備し、袴に仕込んでいく

松王丸の大黒袴を縫う木下幸子さん。ドーナツ状の綿を準備し、袴に仕込んでいく

 「ドーナツ状の綿を入れて裾が膨らんで見えるように仕立てるんです。これから作るので、見ていてくださいね」

 ふわふわの四角い綿がどんと机の上に置かれた。それを木下さんが手でまとめていくと、あっという間に巨大ベーグルのようになった。まるでパン屋さん。それを袴に入れて縫い綴(と)じると、豊かな太ももを感じさせる袴ができあがった。

縫い上がったばかりの大黒袴

縫い上がったばかりの大黒袴

 松王丸は物語の主人公。光沢感のある白山紬(はくさんつむぎ)という上等な布地が用いられていた。袴にもぜひご注目を。 (伝統芸能の道具ラボ主宰・田村民子)

◆公演情報

<令和5年8・9月文楽公演> 三十一日~九月二十四日(七日、十五日休演)、東京都千代田区の国立小劇場。「通し狂言 菅原伝授手習鑑」三~五段目、「曽根崎心中」など。記事で紹介した大黒袴は第二部の四段目で見られる。国立劇場チケットセンター=(電)0570・079900。ネット予約は「国立劇場チケットセンター」から。

◆取材後記

 文楽衣裳の布地調達には、意外な苦労がある。柄の大きさだ。人間用の柄だと人形には大きすぎるのだ。白生地を買って、小さめの柄で染めてもらうこともあるという。極薄の生地も人間用では厚いので、日本画を描くための画布である絵絹を使うという。人形用に適した良質の絵絹を探しているが見つからないというので、私もお手伝いさせてもらうことになった。日本画の画材エキスパートの知人に声をかけて現在進行中だ。文楽と日本画。面白い交流が始まっている。 (田村民子)

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