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<新お道具箱 万華鏡>「水止舞」700周年 受け継ぐ技術と矜持:東京新聞 TOKYO Web - 東京新聞

雨を求めて龍を招く道行(2022年撮影、大田区教育委員会提供)

雨を求めて龍を招く道行(2022年撮影、大田区教育委員会提供)

 夏の炎天下。大きな藁(わら)の筒に入った男が二人、公道をゴロゴロと転がされ、寺まで運ばれる。周囲からはひっきりなしにバケツで水がかけられるので、見物人もびしょ濡(ぬ)れだ。

 東京都大田区にある厳正寺(ごんしょうじ)に伝わる水止舞はこの不思議な道行(みちゆき)からはじまる。雨は降らなければ干ばつになり、逆に多いと災害をもたらす。水止舞はその両方の願いを叶(かな)える行事。前半は雨を求めて龍を招く道行、後半は雨止めを願う三匹獅子の舞が奉納される。寺の由緒によると、今年は七百周年にあたるという。

三匹獅子の舞。両脇に赤い幕をつけた花籠が2人。その内側は、右から雄獅子、雌獅子、中獅子。手前の縄は大貝をほどいたもの(22年撮影、厳正寺水止舞保存協力会提供)

三匹獅子の舞。両脇に赤い幕をつけた花籠が2人。その内側は、右から雄獅子、雌獅子、中獅子。手前の縄は大貝をほどいたもの(22年撮影、厳正寺水止舞保存協力会提供)

 三匹獅子とは、雄二頭、雌一頭の獅子が三人一組となり、腹につけた小さな太鼓を打ちながら踊る一人立の獅子舞をいう。関東から東北にかけて多くみられるが、このような道行がつくのは大変珍しく、東京都の無形民俗文化財に指定されている。

 獅子を踊る人は三角が連なる鱗(うろこ)模様、つまり龍を表す模様の着物と袴(はかま)を着る。獅子の見分け方は、顔の色に注目するとわかりやすい。全体をリードする雄獅子(おじし)は赤、若い雄の中獅子(なかじし)は黒、雌獅子(めじし)は金色。いずれも艶やかな黒い髪がついているが、これは鶏毛を用いるそうだ。

 五月中旬。今年の道行で使う藁の筒を作るというので、厳正寺水止舞保存協力会の鳴嶋博さんに案内いただき見学してきた。

厳正寺水止舞保存協力会メンバーが大貝作りを担う

厳正寺水止舞保存協力会メンバーが大貝作りを担う

 場所は寺の境内で、朝八時半から始まった。藁の筒は龍を表しており、大貝(おおがい)と呼ばれている。雄と雌の二匹分をこれから作るという。

 まず約十四メートルの藁の縄を六本作る。二本を一本にし、そこにもう一本を縒(よ)り合わせて大縄にするのだが、ほどけないように細かく紐(ひも)で結び留めていく。これが大変な手間で、相当な回数に上る。

特製の型に縄を沿わせ、紐で結んで留めながら立体にしていく

特製の型に縄を沿わせ、紐で結んで留めながら立体にしていく

 「この結び方はね、海苔(のり)養殖の網を結ぶやり方と同じなんですよ」と、鳴嶋さん。かつてこのあたりは、海苔の一大産地だった。その技術が道具作りのなかに伝承されているのが興味深い。

 大縄ができると、なにやら不思議な道具が運ばれてきた。大縄を筒状にするための型だ。これは地元の町工場の作。筒の中に入る人の体形に合わせて直径を三段階に調整できる優れものだ。型に沿わせながら雄は時計回り、雌は反時計回りに巻き上げて、最後に龍の頭の飾りをつけて完成。

龍の頭をつけて完成した大貝。右は角を持つ雄、左は雌

龍の頭をつけて完成した大貝。右は角を持つ雄、左は雌

 小雨に濡れながら、黙々と手を動かすこと六時間。疲労はピークのはずだが、どの顔も「今年もはじまるぞ!」という喜びと、歴史ある行事に関わる矜持(きょうじ)に満ちていた。(伝統芸能の道具ラボ主宰・田村民子)

◆公演情報

<水止舞> 七月九日、東京都大田区の厳正寺で開催(原則として毎年七月第二日曜日)。午後一時、区立大森第一小学校前交差点から道行の行列が出発。その後、厳正寺の境内に設置された舞台で水止舞が行われる(午後三時ごろ終了)。問い合わせは厳正寺水止舞保存協力会=080・4931・4321。

◆取材後記

 大貝は道行の後、ほどいて長い縄に戻される。そして三匹獅子の舞台に土俵のように置かれ、結界となる。大貝の変身にも注目してみると一層楽しめそうだ。

 ちなみに水止舞の読み方は「みずどめまい」と言われることが多いが、「ど」と濁らない「みずとめまい」「すいしまい」「みずどめのまい」など、さまざまあるそうだ。(田村民子)

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