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<新お道具箱 万華鏡>能の冠 能面を傷めない配慮も:東京新聞 TOKYO Web - 東京新聞

「吉野天人」(シテ 鵜澤光)。日月の天冠を着けて舞う天人。小鼓は第10期能楽研修修了者の寺澤祐佳里(国立能楽堂提供)

「吉野天人」(シテ 鵜澤光)。日月の天冠を着けて舞う天人。小鼓は第10期能楽研修修了者の寺澤祐佳里(国立能楽堂提供)

 満開の桜に包まれた吉野山に天女が現れ、花を愛(め)で舞う「吉野天人」という優美な能がある。

 天女の頭には、金色に輝く冠。動くたびに、しだれる飾りが揺らめく様は、極楽浄土のよう。その名も天冠(てんがん)。仏具のようにも見えるこの冠は、どのように作られるのか。能の被(かぶ)り物や小道具を製作する山岡商店(京都市)をたずね、話をきいた。

山岡商店代表取締役、柿元實さん。仕事場には製作途中の烏帽子や冠があちこちに置かれていた

山岡商店代表取締役、柿元實さん。仕事場には製作途中の烏帽子や冠があちこちに置かれていた

 京都駅から地下鉄で北へ向かい四つ目の丸太町駅で降りる。そこから京都御苑の南辺をしばらく歩いたところに山岡商店はある。煉瓦(れんが)色の三階建てのビル。古風な建具の玄関を開けると代表取締役の柿元實(みのる)さんが出迎えてくれた。

 創業は安土桃山時代の一五八三年。全国で二軒のみとなった烏帽子(えぼし)屋のひとつで、全国各地の神社や祭事、テレビの時代劇、そして能楽の舞台で使う道具を製作している。ビルの二階と三階は製作工房となっており、九人の職人が忙しそうに手を動かしていた。

烏帽子のしわを作る作業。本しぼと呼ばれる最高ランクの手法は、キリのような道具で細かくしわを寄せる根気のいる作業

烏帽子のしわを作る作業。本しぼと呼ばれる最高ランクの手法は、キリのような道具で細かくしわを寄せる根気のいる作業

 能で使う天冠は、女神や天女、高貴な女性の役に用いる。四隅には瓔珞(ようらく)と呼ばれる房のような飾りが付き、中央には役にふさわしい飾りが立てられる。通常は半月の形をした日月(じつげつ)だが、演目や演出によって鳳凰(ほうおう)や白蓮、梅などを使い分ける。

日月の天冠。組み立て式になっており、ばらばらにして収納される

日月の天冠。組み立て式になっており、ばらばらにして収納される

 「天冠は高度な技術が必要ですから、外部の職人さんの力をお借りしながら作っています」

 注文が入ると、まず柿元さんが製作の段取りを組む。そして彫刻屋、漆を扱う塗師(ぬし)屋、箔(はく)屋、数珠玉屋、彩色屋などの手を経て、最後に山岡商店で組み上げて完成させる。

 円筒形の土台、そして瓔珞の素材は工夫が重ねられてきた。能面に接触しても傷つけない、演者に負担をかけないように軽くするなどのねらいから金属は用いない。長く牛革が使われてきたが、時間がたつと型崩れを起こすという欠点があった。そこで近年ではファイバーと呼ばれる新素材を用いることが多いという。

天冠の瓔珞。数珠玉屋に特注した玉を用いて組み上げる

天冠の瓔珞。数珠玉屋に特注した玉を用いて組み上げる

 軽いのはよいことだが、ちょっと困ったこともある。ゆらゆら揺れる瓔珞は、軽すぎると暴れてしまうのだ。それを落ち着かせるのが玉。重さを慎重に検討し、揺れ具合をコントロールしている。

 「近年は、手に入りにくい素材も多くなってきました。でも一方で、いい新素材も出てきています。昔はこうでした、という歴史をきちんと記録した上で、時代に合わせて素材や技術をかえていく。そうやって伝統のものづくりを継承していきたいと思っています」(伝統芸能の道具ラボ主宰・田村民子)

◆公演情報

 国立能楽堂能楽研修発表会 第31回 青翔会

 六月十三日午後一時、東京・国立能楽堂。能「吉野天人」(シテ 関根祥丸)。能楽研修生や研修修了者が多く参加する公演。一般九百円、学生六百円など。国立劇場チケットセンター=(電)0570・079900。ネット予約は「国立劇場チケットセンター」から。

◆取材後記

 その昔。京都御所の周りには多くの公家屋敷が並んでいたという。その御所と目と鼻の先にある山岡商店で、たくさんの冠・烏帽子を眺めていると、かの時代にタイムスリップしたような気持ちになった。

 烏帽子づくりの話で興味深かったのは「烏帽子は表面の凸凹した“しわ”が命」だということ。しわにもランクがあり、それぞれに技法が異なる。その説明を聞いてから、伝統芸能に出てくるさまざまな烏帽子を見るのが格段に面白くなった。 (田村民子)

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