大学は著作物であふれている。今回、大学教員がその創作にかかわるとき、その著作者は大学になるか否かについて考えてみたい。
著作権法第2条1項2号では、著作者を「著作物を創作する者」と定義する一方で、職務上作成する著作物の著作権は、法人その他使用者が持つとしている。すなわち、実際に手を動かして創作した者が個人であっても、法人などが創作についての発意をもち、業務に従事する者が職務上作成し、法人等の名義で公表することが予定されている場合、法人などが著作者となる(著作権法第15条)。
【講義は誰のもの】
そうなると、教員が行う講義はだれのものだろう。「著作権法逐条講義」6訂新版(加戸守行、2013)では、「大学で講義をしている教授は、講義をするために講義案を作成しますけれども、講義案を作成すること自体は職務ではありません」という理由から、職務著作にあたらないとしている。「標準著作権法」第4版(高林龍、2019)では、「大学の授業の実施は教授の職務であるが、その授業の内容は教授自身が決定しており、法人の発意によるものとは必ずしも言えない」として、同様に職務著作とすることは難しいとしている。
【入試問題は】
つまりは講義内容については、教員がその著作者である。一方で入試問題はというと発行済みの書籍などから取ってくるのではなく、学内の教員が作成した場合は、作問者名を特定されないようにしていることもあり、大学が著作者となる可能性が高い。
通常教員が執筆する書籍は、言うまでもなく執筆者が著作者となる。しかし私自身が「書いた」書籍でありながら、職務著作になったものがある。執筆時、私は山口大知的財産センターで雇用され、教育を主な職務とし、かつ当時の上司から執筆を命じられたからである。一方、本書の表紙デザインは、学外の早稲田大学講師ホベルト・カラペト先生にお願いしており、表紙の著作権は彼個人に帰属する。
本書名は「たのしい著作権法」で、18年版は11月に書き始めて翌2月脱稿という速度で作られた。私は、執筆を通じて著作権法は楽しいことを再発見した。ただし、猛スピードで自ら書く大変さを別にして。
◇山口大学国際総合科学部教授(知的財産センター長) 小川明子
日刊工業新聞2020年12月3日
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