周東佑京のグラブは「久保田スラッガー」 担当する梅田歩夢さんが語る関係性
ソフトバンク・周東佑京内野手がグラブで使用するメーカーは「久保田スラッガー(久保田運動具店)」。常に周東とコミュニケーションを取り、ともに最善のプレーを目指しているソフトバンク担当の梅田歩夢さんを取材した。忘れられないのは、周東への謝罪。そして、その時にかけられた言葉だ。「しょうがないよ」。グラブを通して感じた信頼、兄貴肌のような人柄に迫っていく。
周東が久保田スラッガーを使い始めたのは2020年から。梅田さんも当時はまだ学生で全てを当事者として見てきたわけではないが、同じく久保田スラッガーを使用する高田知季2軍内野守備走塁コーチから「紹介してもらったっていうのはチラッと聞いたことがあって、本人から(前任の方に)連絡したらしいです」と経緯を明かす。梅田さんがホークス担当になった2022年から、本格的に周東との関係がスタートした。
メーカーと選手はシーズン中も頻繁にコミュニケーションを取り、常に道具の改善を行っている。グラブなら紐の交換や、時には中に穴を開けて細工を施す。「そんなに簡単にいかないんです、一発ではなかなか……」。2022年のシーズン途中の出来事。周東にある外野用のグラブを手渡し何度か意見を交換したが、なかなか周東の感覚にフィットするものが作れなかった。期待に応えられず、梅田さんは思わず謝罪の言葉が口をついた。
「技術不足ですみません」。偽りのない本音で、結果的にそのグラブは試合で使われることはなかった。「なかなか馴染まないということで、紐も変えていますし、紐の通し方も変えたんですけど、最後まではまらなかったです」。2022年は、梅田さんにとってもソフトバンクを担当して1年目。3歳年上の周東は、深くうなずいて、許してくれた。
「めっちゃ優しかったです。『しょうがないよ』『大丈夫、大丈夫』って。そんなふうに返ってくると思わなくて……。『もうちょっとどうにかして』とか言われると思っていたんですけど『最初だから仕方ない』って」
強調しておくが周東のグラブに対するこだわりは“捕れればいい”という程度のものではなく、細部の細部まで注意している。梅田さんにとっては予想外の言葉で「怒られるかと思った」という。周東の器の大きさに他ならず、かけてもらった「大丈夫」という言葉は、帰り道もぐるぐると頭の中を回っていた。前年の外野用グラブもまだ手元にあっただけに幸い、大きな影響を与えることはなかった。担当する選手の期待に応えたいのはもちろん、その対象が周東だからこそ力になりたい。梅田さんにとって、もっと最高のグラブを作ると誓った出来事だ。
周東のグラブは「品番が違うんです。ベースとなる形は毎年変えています」と言う。体を鍛えれば握力も強くなり、グラブに対する感覚も変化する。投手のレベルも上がることで打球の速度も速くなり「去年までならこれでいけたけど、今年はこういうグラブが欲しいとか、毎年によって(要望は)あります」と、周東の機微な変化についていこうと梅田さんにとっても試行錯誤の日々だ。二塁で5試合、三塁で14試合、外野で94試合に出場した2023年。失策は三塁での1つだけだった。
その唯一の失策が、梅田さんにとっても忘れられない試合となった。8月25日の楽天戦(楽天モバイル)。7回2死二塁でフライを落球。グラブに当てながらも落としてしまい、チームはサヨナラ負けを喫した。梅田さんもリアルタイムで試合は見ていたそうで「フライを追っていって、マウンドに行ったじゃないですか。足元が怪しかったのを見て『大丈夫かな』って思ったんですけど……」と振り返る。マウンド付近の飛球に、悪い予感が的中してしまった。
メーカー側にとっても、選手のミスは胸が痛い。何より、悔しい。テレビカメラにも当然、自分たちが作っているグラブのラベルが映ってしまう。周東の落球を見た梅田さんも「グラブ映すなよって思いました」と苦笑いしながら振り返るが、偽りのない本音。誰よりも隣で周東の努力を見守り、自分自身もプライドを持って日々の仕事をこなしてきたからだ。選手には選手のプロ意識があるが、裏方さんには裏方さんにしかない美学がある。
そうやって、周東との関係は少しずつ、確実に深まっていった。次回は周東の「素直さ」について、梅田さんに深く紹介してもらう。
(竹村岳 / Gaku Takemura)
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