ジェイムズ・ギャラガー、健康・科学担当編集委員
出生率の低下により、世界の人口は2064年にピーク(約97億人)を迎えた後、今世紀末には約88億人にまで減少するという予測を、米ワシントン大学の研究チームが発表した。研究者たちは、社会に「仰天するほどの」衝撃をもたらすことになる出生率の低下に対して、世界は準備不足だと指摘している。
出生率の低下は、今世紀末までにほぼ全ての国が人口減少に直面する可能性があることを意味している。
そしてスペインや日本を含む23カ国では、2100年までに人口が半減すると予測されている。
また、出生数と同じくらいの人数が80歳を迎えることになり、各国で劇的に高齢化が進むという。
何が起こっているのか
出生率(女性1人が出産する子どもの平均人数)が低下している。
この数字がおおよそ2.1を下回ると、人口の規模は小さくなり始める。
1950年には、1人の女性が生涯に産む子どもの人数は平均4.7人だった。
米ワシントン大学の保健指標評価研究所(IHME)の研究者たちは、2017年には世界の出生率が2.4と、ほぼ半減したとしている。2100年までには1.7を下回ると予測している。
出生率の低下により、世界の人口は2064年ごろには約97億人に達してピークを迎えるが、今世紀末までには約88億人にまで減少すると、研究者たちは予測している。
「これはかなり重大なことだ。世界のほとんどの場所で人口の自然減へと推移しつつある」と、IHME研究員のクリストファー・マリー教授はBBCに述べた。
「このことをじっくり考え、どれほど大きな問題なのかを認識するのは非常に難しいと思う。これは異常事態であり、社会を立て直さなければならない」
なぜ出生率が低下しているのか
出生率の低下は、精子の数とも、生殖能力について議論する際に頭に浮かぶありきたりな事とも、何ら関係ない。
そうではなく、教育を受け仕事をする女性が増え、避妊がもっと簡単になったことで、女性がより少ない子ども数を選択するようになったのだ。
いろんな意味で、出生率の低下は成功談(サクセス・ストーリー)なのだ。
最も影響を受ける国は
日本の人口はピーク時の2017年には約1億2800万人だったが、今世紀末までに5300万人以下に減少すると予測されている。
イタリアでも日本と同様に、同時期に約6100万人から約2800万人へと劇的に減少するとみられている。
日本とイタリアに、スペインやポルトガル、タイ、韓国などを加えた計23カ国で、人口が半数以上減少すると予測されている。
マリー教授は「仰天するほど驚くべきこと」だと私に語った。
現在世界で最も人口の多い中国は、今後4年でピークの約14億人に達し、その後は2100年までに半数近く減少して約7億3200万人になると見込まれている。そしてインドが人口で世界一になるという。
イギリスは2063年に約7500万人となってピークを迎え、2100年までに7100万人へと減少する見通し。
しかし、これはまさに世界的な問題となるだろう。195カ国中183カ国で出生率が人口置換水準(人口が増加も減少もしない均衡した状態となる合計特殊出生率)を下回ることになるからだ。
なぜ問題なのか
これを環境にとって素晴らしいことだと考える人がいるかもしれない。人口が減れば二酸化炭素排出量が減り、農地のための森林伐採も減る。
「年齢構造の逆転(若者より高齢者の方が多い)や、年齢構造の逆転がもたらす一様にマイナスな結果を除けば、そうかもしれない」と、マリー教授は言う。
IHMEの研究による予測は次の通り。
- 5歳未満の人口: 2017年の約6億8100万人から2100年には約4億100万人へと減少
- 80歳以上の人口: 2017年の約1億4100万人から2100年には約8億6600万人にまで急増
マリー教授は、「巨大な社会的変化をもたらすだろう。私には8歳の娘がいるので、世界がどうなるのか心配だ」と付け加えた。
とてつもなく高齢化が進む世界で、誰が税金を払うのだろうか? 誰が高齢者のための医療費を払うのだろうか? 誰が高齢者の世話をするのだろうか? これまで通り定年退職できるのだろうか?
「我々はソフトランディング(大きな衝撃を伴わないよう着地)する必要がある」と、マリー教授は主張する。
解決策は
イギリスを含む国々は、人口を増やし出生率の低下を補うために、移民を活用してきた。
しかし、ほぼすべての国の人口が減少してしまえば、この方法は解決策にはならない。
「国境を開くか開かないかを選択する時代から、移民をめぐる露骨な競争をする時代へと移行することになる。移民の数は十分ではないので」と、マリー教授は主張する。
一部の国は女性の産休や父親の育休の拡充、無料の保育制度、奨励金、雇用における権利の拡充といった政策を試みてきたが、明確な答えはない。
スウェーデンは出生率を1.7から1.9へと引き上げたが、「ベビー・バスト」(出生率の激減)対策に力を入れてきたほかの国々は苦戦を強いられている。シンガポールの出生率は1.3前後のままだ。
マリー教授は、「こうした状況を笑い飛ばす人たちがいる。本当に起きていることだと想像もできず、女性がもっとたくさん子どもを産むことを決心さえすればいいと考えている」と指摘する。
「(解決策を見つけられないなら)最終的に人類は消滅する。数世紀先の話だが」
研究者たちは、女性の教育や避妊へのアクセスをめぐる前進を逆戻りさせないよう警告している。
IHMEのスタイン・エミル・ヴォルセット教授は、「人口減少への対応は、多くの国で最優先の政策課題となる可能性が高い。しかし、女性のリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)あるいは女性の権利の進歩を推し進める努力は妥協してはならない 」と述べた。
アフリカの状況は
サハラ砂漠以南のアフリカ地域の人口は2100年までに、3倍の30億人超になると予測されている。
IHMEの研究によると、ナイジェリアの人口は世界第2位の多さの約7億9100万人に達するという。
マリー教授は、「このような状況が続けば、より多くの国でアフリカ系の人たちがさらに増えるだろう」と話す。
「多くの国で多数のアフリカ系の人々が暮らすことになれば、人種差別をめぐる問題への世界的な認識がいっそう重要なものになっていく」
なぜ出生率の基準値が2.1なのか
2人の親が2人の子どもを持てば人口規模は同じままになるのだから、基準値は2.0のはずだと、あなたは思うかもしれない。
しかし、優れた医療が受けられても全ての子どもが成人まで生き延びるわけではない。また、赤ちゃんが男である可能性がわずかに高くなっている。そのため、先進国での人口置換水準は2.1になる。
子どもの死亡率が高い国では、出生率もより高くなければならない。
専門家の見解は
英ユニヴァーシティ・コレッジ・ロンドン(UCL)のイブラヒム・アブバカー教授は、「これらの予測が半分でも正確であれば、移民はすべての国にとって選択肢ではなく不可欠な存在となる」と述べた。
「成功するためには、世界政治を根本的に再考する必要がある」
「生産年齢人口の分布は、人類が繁栄するか衰退するかということにおいて極めて重要になる」
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July 15, 2020 at 07:07PM
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世界の出生率、驚異的な低下 23カ国で今世紀末までに人口半減=米大学予測 - BBCニュース
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